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桐谷健太『火花』を語る「上京したての絶望を考えたら、俺もやるなあと」

文庫LOVE

2017/11/22
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芥川賞を受賞した又吉直樹の小説『火花』がついに映画化。客に媚びない笑いを追求する漫才コンビ「あほんだら」の神谷(桐谷健太)に心酔し、弟子入りを志願する「スパークス」の徳永(菅田将暉)。自分らの笑いを信じ、夢を追う者たちの青春物語に、笑いのプロの板尾創路がメガフォンをとった。出演者全員関西人。主演の桐谷健太が語る「映画」と「笑い」と「好きな本」。

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映画のお話をいただいたときは「ほんまに、来たでー」

――原作の小説『火花』は読まれましたか?

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桐谷 はい。まだドラマ化の話が出る前に、友達が貸してくれました。すみません。買ってはいないんです (笑)。そのとき友達が、「もし、これが実写化されたら、健ちゃん、絶対、神谷役合うと思うわ」と言ってくれたんです。だから、映画のお話をいただいたときは、縁を感じましたし、うれしかったです。「ほんまに、来たでー」と(笑)。

――読まれた感想は?

桐谷 芥川賞をとりはったから、難しい話なんかなと思っていたら、めっちゃ読みやすかった。くだらん話をしながら時間が過ぎていくとか、神谷と徳永が朝までつるんで飲む感じとか、わかるなあと思いながら読んでいました。初めて読んだときは、神谷という人物が一人の人間に思えなかったというか、又吉さんの思う、いろんな先輩方のエッセンスが含まれているのかなと想像していました。

©松本昇大

――神谷役を演じるにあたって、どんなことを大事にしましたか?

 神谷は奇抜なこともしますが、そこまでぶっ飛んでいるイメージはなかったんです。大阪にはもっと変な人がたくさんいますから(笑)。天才肌と言われる神谷をどう表現したらいいのかなと悩んでいたんです。あほんだらの相方・大林役の三浦誠己くんとは、代々木公園やカラオケボックスで、よく漫才の自主練をしていたんですが、あるとき、バラエティ番組に出ている俺を見て三浦くんが「桐谷健太がおもろいと思う言い方、おもろいと思うことをやればええと思う。それがきっと神谷になるから」と言うてくれたんです。彼はもともと芸人さんなので説得力があったし、めっちゃうれしかったですね。笑いってどうしても感覚的なものだから、神谷の間はこう、と決めても、自分がおもろいと感じられないと嘘になってしまう。奇をてらわなくていいし、自分の信じる間、おもしろでやっていけばいいと、言われてはっとしましたね。

子どものころ、そのへんのおっちゃんがみんな面白かった

――俳優というより、芸人として生きていたように見えるくらい、役にはまっていました。

桐谷 もともと子どものころから、人を笑かすのが好きだったんです。小学校の卒業アルバムでは、将来の夢に「コメディアン」と書いていましたから。いま思うと、お笑い芸人さんなんですけど、職業の名前がわからんかった。友だちに聞いたら、「コメディアンちゃう?」と言われてそのまま書きました。「コメディアン」って、なかなか言わないから、一周まわって面白いですけどね(笑)。

――当時好きだったコメディアンは?

桐谷 特別この人というのはなかったんですが、『オレたちひょうきん族』やダウンタウンさんの『4時ですよ~だ』なんかをよく観ていました。あと、そのへんのおっちゃんがみんな面白かったんですね。おとんが連れて行ってくれた飲み屋のおじさんらの会話が面白くて。

――子どものころから、笑いの英才教育を受けていたんですね?(笑)

桐谷 高校でもみんな、普通にボケツッコミしていましたしね。笑いは、テレビを見て学ぶというより、育った環境のなかに自然にあったと思いますね。

――『火花』では、徳永のもがいた10年間が描かれていますが、ご自身と重なる部分はありましたか?

桐谷 もちろん、売れずにもがいていた、絶望を感じていた時期はありましたけど、今思えばそのときにしかない面白さも確かにありました。だから、物語のなかの売れない芸人たちの感覚は共感するところはあります。役者には脚本があって、1のものを1のままやったり、100や1000にする仕事ですが、漫才は自分たちで0から作り上げるもの。観客に理解されるものを作るのか、笑えんかったら笑えんでええと突き放すのか。神谷はワイルドなところもあるけど、笑いの分析もちゃんとしているから、わかりやすい笑いをやれば、売れるんじゃないかと思いましたけど、そこをしないのが神谷なんでしょうね。

吉祥寺を舞台に神谷(桐谷健太)と徳永(菅田将暉)の青春を描く ©2017「火花」製作委員会