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イスラエルのビジネスエリートが語る「日本の企業はここが残念」

超ハイテク国家のエリートから見た21世紀の日本 #2

 イスラエルがハイテク国家として成長できた背景には、サイバー特殊部隊「8200部隊」に象徴される軍の超エリート教育があった。『知立国家 イスラエル』(文春新書)の筆者・米山伸郎氏が司会となり、東京を拠点に活動するイスラエル特殊部隊出身のビジネスエリートに日本経済のポテンシャルと限界について聞いた。

(全2回・「イスラエル軍サイバー特殊部隊出身者が語る『私たちが日本にきた理由』」から続く)

〈知日派のイスラエル人たちは、日本に大きな「伸び代」があることを感じ取っている。少なくともイスラエルに比べて、日本のベンチャー市場にはまだまだダイヤの原石が埋もれていると彼らがみているのは間違いない。今後、日本とイスラエルが協働してその伸び代を実現させる可能性は大いにある〉

――『知立国家 イスラエル』はじめに イスラエル急成長の秘密を探る

彼らは日本経済のどこに目をつけているのか ©文藝春秋

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――みなさんの日本との関係について詳しく聞いていきます。

 ヨアブ 日本とイスラエルの架け橋になると考えた理由から話しましょう。私が最初に日本に移り住んだのは1999年でした。当時、イスラエルが日本より進んでいた分野はありませんでした。よくイスラエルの友人や親族にそのような話をしたことを覚えています。日本は建設、コンピュータ、製造業など、あらゆるテクノロジー分野で先進的だったのです。ところが、2010年代に入って再び日本を訪れたとき、日本は以前と同じような立ち位置にいましたが、イスラエルは根本的に変化していたのです。

 大きなドライビングフォースになったのは、やはりインターネットの存在でしょう。情報を効率的に安価にやりとりすることが可能になり、地図の上では小さく隔離されたイスラエルの競争力を高めるビジネスチャンスが訪れました。飛行機に乗せなくても、広大な工場を建てなくても、ソフトウェアは世界中に売ることができるからです。トヨタの「カイゼン」のような長年のプロセスを経なくても、これらの企業はジャンプアップできます。日本の競争力は明らかに低下しています。モノづくりのポテンシャルはまだまだ高いですが、新しいグローバル競争に太刀打ちできる産業ではありません。

 アサフ 私も「先進国」のイメージがあっただけに、いろいろ違和感がありました。

 ヨアブ 例えば、新幹線は素晴らしい交通システムですが、15年前に私が日本に住んでいたときから大きくは変化していません。オンラインでチケットを買うことは簡単ではありませんが、海外から訪れる人間にとっては信じられないことです。日本人は、まだまだレンタルショップでDVDを借りますよね。世界中ではストリーミングサービスがはやっている中で、かなり奇異な印象を受けてしまいます。中国のような規制や検閲がないのに、世界中で標準化されているサービスが十分に提供されていない現状がある。

 ニール ソフトウェアの技術が、必ずしもハードウェアの水準に追いついていません。

 ヨアブ 「ここには、コネクションを活かす場面がいくらでもある」と感じました。イスラエルの競争力は、近年急速に高まっていますからね。ただ、イスラエルは日本と比べると製造拠点の品質は大きく劣っていますから、両者をつなげる価値があるのです。

日本のトイレ技術に驚いたというニールさん ©文藝春秋

 ニール その理念に共感したので、私はヨアブと一緒に働いています。イスラエル政府は最近では中国にインフラ建設を発注しているケースが目立ちますが、もっと日本とのつながりを強めるべきだと思います。私は日本のトイレに感嘆しましたが、トイレテクノロジー以外にも、「ワオ。これはイスラエルに導入すべきだ」と感じたものが多々ありますから(笑)。

 アサフ 私が働いているのは、ソフトバンクとイスラエルのベンチャー企業・Cybereason(サイバーリーズン)の合弁事業です。1年半ほど前、日本にもオフィスをオープンさせました。そして私は日本語の勉強をしていましたので、日本での職場をオファーされたのです。

 私のミッションは、現地スタッフを訓練することです。4、5年前に初めて日本でサイバーセキュリティ関係の仕事をしたとき、すべてが10年遅れの水準だったことに驚かされました。自社製品について説明する前に、サイバーセキュリティの基礎的な「講習」が必要だったことも少なくありません。しかし、日本は中国、北朝鮮、ロシア、東ヨーロッパなどあらゆる地域から容赦ないサイバーアタックを受けているので、その防御のお手伝いをすることで大好きな日本社会に貢献したいという思いもあります。