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がん治療中のQOL向上のために、心のケアを担う「精神腫瘍科」とは?

国立がん研究センター東病院 小川朝生医師インタビュー#1

2017/12/04

  日本ではまだ比較的新しい分野である「精神腫瘍科」。がん治療においても、ようやく「療養生活の質(QOL)」が重要だと認識され、心のケアに目が向けられるようになってきました。あまり聞き慣れない言葉ですが、一体どんな診療が行われているのでしょうか。

「そもそも、精神腫瘍科って何ですか?」

    素朴なギモンを腫瘍学研究の第一人者である国立がん研究センター東病院精神腫瘍科の小川朝生先生にお伺いしました(前後編インタビュー。#2に続きます)。

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「精神腫瘍科」はがん治療に特化している精神科

──「精神腫瘍科」は、「精神科」とはどう違うんですか?

小川 「精神腫瘍科」は比較的新しい分野なので、まだあまり聞き慣れない方が多いかもしれません。ベースは精神科ですが、がん治療に特化しているのが特徴です。アメリカでの「コンサルテーション・リエゾン精神医学」という体の病気を持った方のメンタルサポートをする領域がはじまりといわれ、日本では1990年代以降にようやく広がりはじめました。国立がんセンター(当時)に精神科が設置されたのが1992年です。

小川朝生医師

──「精神腫瘍科」では、カウンセリングをしたり、薬を処方したりしてくれるということでしょうか。

小川 もちろん、必要に応じて薬物療法も精神療法も行いますが、それだけではありません。がん治療についての情報を伝えたり、今後の治療に備えて「よく眠れるように」とか「気持ちが軽くなるように」など、体と心のメンテナンス方法などをお伝えすることもあります。要するに、最適ながん治療が行えるよう、あらゆる時期のがん患者さんとご家族に心のケアを提供している、といえばわかりやすいでしょうか。がん専門修練医やレジデント(臨床研修医)の精神科医、心療内科医など、心の支援を専門とする医師と心理職がチームを組んで診療を行います。

東病院でがん治療を受けていない患者さんや家族も受診できます

──がん患者に心の支援が必要だという認識がようやく広がってきたということですね。

小川 がん患者さんは誰しも、気持ちのつらさや不安、精神的落ち込みを経験します。そしてそれらは、患者さんご自身やご家族にとって負担になるだけでなく、治療の妨げになる場合もあります。最近になって心のケアに関して目が向けられるようになってきたのは、がん治療においてようやく「療養生活の質(QOL)」が重要だと認識されるようになったからです。

 

──患者だけでなく、その家族が精神的なプレッシャーを感じたときに相談しに行ってもいいんでしょうか。

小川 もちろんです。入院中や外来通院中の患者さんはもちろんですが、当院でがん治療を受けていない患者さんやご家族の方が、精神的ケアのためだけに受診することもできます。実際、インターネットなどで調べて、精神腫瘍科だけを受診に当院へ来られる患者さんもいらっしゃいます。外来治療は一般の保険診療として行っておりますので、一人で抱え込む前にぜひ来院していただきたいです。