風俗嬢、風俗店経営者、スカウトマン……。新型コロナウイルスの影響を受け、繁華街・風俗業界に生きる人々は苦難を強いられた。店舗を訪れる客が減れば当然、働く人々は困窮する。新型コロナウイルスが世界中にもたらした未曾有の危機に、風俗業界で生きてきた人々はどう立ち向かうのか。

 ここでは、ノンフィクションライター、八木澤高明氏の著書『コロナと風俗嬢』(草思社)の一部を抜粋。ソープ嬢を足抜けした飲食店経営者にコロナが与えた影響について読む。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

10歳から体を金に替えてきたフーミン

 コロナ禍にあってもソープランドで体を売りつづける女性がいる一方、コロナ直前にソープ嬢を辞めて昼の仕事をはじめた女性もいる。このパンデミックによって、彼女の人生もまた大きく揺れ動いた。

「小学校5年生のとき、学校の帰り道で『お菓子をあげるから家に来ない?』と知らないおじさんから言われて、ついていったんです。そうしたら、『裸になったら1万円あげる』って言われて。そんなんでお金がもらえるならって、すぐに脱ぎました」

 ためらいもなく10歳のときの話をしてくれたのは、4年前までソープランドで体を売っていたフーミン(31歳/仮名)だ。

 現在彼女は、都内で小さな韓国料理店を経営している。当初、店の経営は順調だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、私が訪れた数日前からぱったりと客足が途絶えてしまったという。そうしたなかにあっても笑顔は絶やさず、朗らかな雰囲気が印象的な女性だ。しかし、その口から発せられる言葉はいずれも衝撃的だった。

「最初から、裸になることに抵抗はなかったんですか」

「そうですね。それよりもお金に対する執着心がすごかったんです。高校生になっても小遣い稼ぎで、そのおじさんの家にちょくちょく通っていました。アソコに指を入れられたりもして。『きみの処女は20歳になったとき僕がもらうから、体を大事にしなさい』と言われましたけど、そのころにはもうデリヘルにいましたから」

 飽くなき金への執着心。いったいそれはどこから芽生えたのだろうか。

「とにかく家が貧乏だったんです。母親はいつも泥酔してるし、お父さんは土日にしか帰ってこない。小学生のときからお小遣いなんてもらったことがなかったんです。友達はふつうに自分の小遣いで好きなお菓子を買っている。それが羨ましくて、万引きをするようになりました」

 万引きはどんどんエスカレートしていった。

「ドン・キホーテに行っては洋服だとか、お金になりそうなものをたくさん盗んで、それをフリーマーケットで売るようになりました。4年生でしたね」

 9歳のフーミンは、それで月に15万円ほど稼いでいたという。