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連載文春図書館 著者は語る

奥山 真司
2016/05/18

世界的戦略家が“大国中国”を斬る

『中国(チャイナ)4.0 暴発する中華帝国』 (エドワード・ルトワック 著/奥山真司 訳)

source : 週刊文春 2016年5月19日号

genre : エンタメ, 読書

Edward N.Luttwak/戦略家。1942年ルーマニア生まれ。戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー。
訳者・おくやままさし/1972年生まれ。気鋭の地政学者。国際地政学研究所上席研究員。訳書に、ルトワック『自滅する中国』(監訳)など。

「私は中国だけを研究している中国専門家ではありませんが、長年にわたって中国を観察してきたことで、中国専門家たちが見抜けていないポイントに気づいていました。それを戦略論の観点からまとめたのが、日本でも2013年に翻訳され、話題となった『自滅する中国』(芙蓉書房)です。ところがそれから数年たったいま、中国が大きく戦略を転換してきています」

 ルトワックは、アメリカをはじめとする世界各国の政府や軍のアドバイザーやコンサルタントとして活躍する「戦略家」(ストラテジスト)。先日、私が翻訳を担当して『中国4.0』を出版した。彼によれば、中国は2000年代に入ってたった15年の間に対外政策を3度も大きく変更したのだという。

「中国との付き合いは、1976年の夏、アメリカ政府に依頼されて中国のロシア最前線での状況をアドバイスしたのに始まります。この年、毛沢東が死に、その亡骸も北京で見ました。その後も何度となく中国を訪れて、要人たちと語り合ってきました。しかし付き合う中で、彼らが孫子や呉子のような偉大な戦略の思想家を生み出した過去の栄光を信奉しているだけで、戦略について素人であることがわかってきたのです」

 日本では、むしろ中国の油断ならぬ戦略的な動きを指摘する声が多いが、

「たしかに一部ではそうかもしれません。2000年代に入ってすぐに採用された『平和的台頭』という戦略は、他国と余計な摩擦や衝突を起こさずに国力を上げることのできる最も成功したものでした」

 ルトワックの名づけるこの巧妙な「中国1.0」は、しかし世界を震撼させた2008年のリーマン・ショックを機に「中国2.0」へと大きくシフトした。

「中国はもはや小国でなく、大国として積極的に攻勢に出るべきだという圧力が国内に充満したのです。これがいかに大きな誤りかを指摘したのが前著の『自滅する中国』でしたが、その後2014年になり、習近平政権が再び中国の戦略を変更しました」

 それが「中国 3.0」。戦略を変更するきっかけとなったのは、南シナ海で中国に対して強い抵抗を示したベトナムと、東シナ海で断固とした姿勢を貫いた日本だったとルトワックは指摘する。前著に引き続き、新著『中国4.0』でも、世界に大きな影響を及ぼす中国の戦略の流れとその理由を独自の視点で鮮やかに説く。

 中国は大国戦略をとって強く外にでたが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまった――このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけている。プレイヤーが競合関係にある場では、このようなメカニズムが常に発生しているが、中国はいまだそれを理解できておらず、不安定な国である。そしてそのような中国に対処するために日本はどうすればいいのか、というところにまで『中国4.0』では踏み込んだ。

 実はルトワックは日本の温泉が大好き。何を隠そう、去年の10月、彼に突然伊豆に呼びだされ、温泉につかって語る彼の話を横で私がまとめたのが本書なのだ。本書の読者から「ルトワックの本にしては読みやすいよ」と時折声をかけられるが、それは彼がかけ流しのお湯につかり相模湾のとれたての刺し身を楽しみながら語った結果だと、個人的には感じている。

「大国は小国に勝てない」「中国は戦略が下手」「中国は外国を理解できない」など、パラドックス理論で名を馳せ、各国の国防政策にアドバイスしてきた世界的な戦略家、ルトワックが日本にとって危険な隣国・中国を分析、その未来を予測する。南シナ海、尖閣問題とゆれる東アジア情勢を見極めるために必読の書。

中国4.0 暴発する中華帝国 ((文春新書))

エドワード ルトワック(著),奥山真司(翻訳)

文藝春秋
2016年3月18日 発売

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