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HISATO
2017/12/03

【ヤクルト】戸田球場に舞い降りた1羽の燕 それを手に乗せたのは館山昌平だった

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

プロ野球と鳥

 今年のプロ野球は、鳥の話題が多かった。

 鷹は優勝し、鷲は飛び、鴎と燕は地に落ちた。しかし、今年話題をかっさらった感のある鳥が、8月30日に現れた「コボスタの鳥」だ。少なくとも、その日の夜は日本中が鳥に釘付けだった。

 鳥の群れが飛び回り試合は中断。大勢で追ったり花火を上げたり、果ては電気を消して待つという一大イベントに発展していた間、鳥好きの自分は「その鳥が何か」の特定に情熱を注いでいた。

 動画や静止画では柄がよく見えない。個体の大きさや嘴の形も不明瞭。そして報道も一向に表記が「鳥」から変わらなかった。

 アジサシの類だろうかと調べてはみたが特定には至らず、どうにも気になって仕方ない。ついには作家で鳥の著書の多い友人に動画をリンクして訊いてみた。すると瞬時に「アカエリヒレアシシギのようですよ」とリプライが返ってきた。

 執筆に忙しく、TLは追うが実際に野球を見ていない人が即答してきたので、恐らく鳥好きの間では既に話題になり、種類が特定されていたものと思われる。鳥騒動が収まる前に、こちらはスッキリ気が済んだ。井上靖の『海峡』冒頭では、この鳥の群れが後楽園球場に飛来した描写がある。野球場とは意外と縁のある鳥のようだ。

 一方、「コボスタの鳥」以上に、ネット上でスワローズファンに話題になった鳥がいた。ツバメである。

 いや当たり前だろ! と思うかもしれないが、球団シンボルのツバメではなく畜生ペンギンでもない。その日の戸田には、文字通り燕が舞い降りた。のみならず、その鳥が選手の手の上で羽を休めるという奇跡が起こった。

グラウンドに舞い降りてきた1羽の燕

 7月17日のことだ。二軍は試合のない祝日で、練習を見るファンもそこそこいた。練習する選手たちの元へ、1羽の燕が飛んで来た。まだ飛ぶ力の弱い巣立ち直後の幼鳥だろう。高く飛べずに人に止まってしまった。気付いた時には館山昌平が燕を手に乗せていた。こんな構図は一生に一度あるかないか。おかげでスワローズファンのTLでは、瞬く間に燕を手にした館山が拡散された。

燕を手渡す館山 ©HISATO

 館山が燕を見る目や仕草は非常に優しかった。他の選手たちも何かと気にかけ、畠山和洋も「可愛いね」と見つめる。一緒にいた育成の田川賢吾やルーキーの寺島成輝に手渡していたが、およそ物怖じしないやんちゃ左腕が結構及び腰だった。館山は面白そうに笑ってもう一度燕を受け取ると、グラウンドキーパーへの元へと歩いた。

 燕を託されたのは顔見知りのグラウンドキーパーだったので、鳥好きの性として、僭越ながら助言をさせてもらった。巣立ち直後の幼鳥は親が近くにいるのが普通で、その場に置いておくのがセオリーだ。実際その時電線には成鳥と何羽かの幼鳥が止まっていた。餌を運ぶかもしれないし、一緒に飛んでいく可能性も高い。目立つところに置くようお願いした。

 その後練習が終わり自分も帰ったが、その時には鳥の姿は見なかった。気になったので後日グラウンドキーパーに尋ねてみたが、やはり見ていないと言う。多分無事に巣立って行ったのだと思う。