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「ものまねが本物を復活させるって、何なんだよ(笑)」評論家・中野剛志と作家・適菜収が語る、ものまね界の“人間国宝”コロッケの凄さ

『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』より #2

note

適菜 本来の芸能は危険なものですね。ミラクルの竹内まりや(1955-)のものまねも、危険な領域に入ってます。あと、私が好きなのは青汁を飲むおばさんのものまね。本来、ああいうお笑いの要素が入ったものまねは私は嫌いなのですが、ミラクルの場合は本質を掴んでいるから、芸として一流なんですよ。同じようなことを友近(1973-)がやってもダメなんです。友近はただ気持ちよくカラオケを唄ったり、つまらないコントでごまかすだけ。ものまねを理解していないのに、圧倒的なドヤ顔で三流の芸を披露するわけです。

 ああいうものをテレビに出すのは、真面目なものまね芸人に失礼です。ミラクルに謝れよ。

中野 テレビの演出なのか、本当なのか知らないけれども、ものまねバトルのような番組で、優勝して泣く芸人がいますよね。あんなくだらないものを、こんなに本気でやるやつはすごいなと、私は感動しました。ものまね芸人が複数集まってトークをする番組を見ていたら、誰々さんのものまねがすごいとか、お互い尊敬し合っているようなところがある。

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 コロッケやミラクルひかるは、ものまね芸に加えて「笑い」が入る。あれがすごいですね。私が最近、腹を抱えて笑ったのが「坂本冬休み」(1971-)というものまね芸人。

適菜 知らないです。

中野 知らないの?

適菜 知らない。

中野 コロッケ一押しの芸人です。

適菜 そうなんですか。私はユーチューブに流れているものまね番組しか見ていません。テレビを持ってないので。

中野 坂本冬休みは、ユーチューブで検索したら出てきますよ。最近、ものまねに限らず若い人ってなんでも器用じゃないですか。本当にレベルが高くて感心するんだけど、でも、ものまねで言うと、本当に似ていたり、歌がうまかったりしてすごいんだけど、なんて言うのか、笑いを取るところがまだ未熟ですよね。

コロッケのものまねで一番衝撃的だったのは、森進一の恐竜

適菜 ああ、よく分かります。悪意が足りない。清水ミチコやミラクルひかるには、悪意がある。骨格、本質を見抜くためには悪意が必要になる。いじわるな視点というか。

中野 ミラクルひかるもデビューした頃は、宇多田ヒカル(1983-)に真面目に似せてたんだけれど、途中から崩れてきた。崩れると、これは円熟の域で、崩れてるのに似てると思わせる。こういう世界はコロッケが最初に作ったんじゃないでしょうかね。コロッケのものまねで一番衝撃的だったのは、森進一(1947-)の恐竜。

適菜 コロッケの瀬川瑛子(1947-)の牛のまねもすごい。

中野 あれも、素晴らしい。あと、河村隆一(1970-)の歌のまねをしたまま寝そべる芸とか。

適菜 あれは瀬川瑛子や河村隆一の内面を見抜いているわけですよね。だから中野さんがおっしゃったように、荒牧陽子(1981-)は声帯模写は完璧なんですが、円熟まで達していない。