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居酒屋風から北欧系まで「フレンチ」の当たり年――2017年のグルメ界を総まくり #1

中学生の頃から献立を考えていた異色シェフ

 2017年はフレンチの当たり年でしたね。素晴らしいお店が雨後の筍のごとくたくさん生まれました。そして、フレンチという枠のなかにさまざまなスタイルが登場したのが特徴だと思います。

 まずはフレンチの世界の潮流の最先端にいるシェフの店。その筆頭が白金高輪の「アルゴリズム(l'algorithme)」。御殿山にあるミシュラン三つ星「カンテサンス(Quintessence)」出身の深谷博輝さんが9月にオープンしたお店で、特にフレンチを食べ込んだ人にウケています。去年の12月に西麻布にオープンした「クローニー(Crony)」も玄人をうならせる味。シェフの春田理宏さんは同じくカンテサンス出身です。

フレンチの最先端「アルゴリズム」
 フレンチを食べこんだ人にウケる料理

 一方、誰でも気軽にフレンチを楽しめるのが7月に浅草でオープンした「マイクロビストロ ペタンク(MICRO BISTRO Petanque)」。オーナーシェフの山田武志さんは銀座にあった伝説のワインバー、「グレープ・ガンボ(閉店)」と「ワインショップ&ダイナー FUJIMARU 浅草橋店」のシェフだったので、安くておいしいワインや料理を教えてくれます。

気軽にフレンチを楽しめる「ペタンク」
 リーズナブルなメニューが並ぶ

 牛込神楽坂の「ボルト(BOLT)」も「名店出身のシェフが、フレンチを骨格に独自の工夫をこらした料理を出すカウンター店」というスタイルが「ペタンク」と共通しているので今年、ボルトとペタンクはセットで語られることがすごく多かった。おふたりとも和知徹シェフの下にいたことがあって、その影響がある点も似ていますね。私自身もいろんな媒体でセットで語りました(笑)。

神楽坂のはずれにある「ボルト」
カジュアルなメニューで入りやすい

 2月に西麻布にオープンした「レストランタクミ(Takumi)」もとても個性的で、いい店ですよ。オーナーシェフの大槻卓伺さんはまだ29歳の若手で、異色の経歴の持ち主なんです。

29歳の若手シェフの感性が光る「レストランタクミ」

 子供の時から料理が好きで、中学生の頃から毎週末、家族に料理をふるまうために、料理の本を読んだりして1週間献立を考えて過ごしていたらしい。大学卒業後、フレンチのシェフになるためすぐフランスに渡って、3年と少し、5軒のミシュランの星付きレストランで修業して帰国。日本には師匠がいないにもかかわらず28歳の時にいきなり西麻布に店を開いたという謎の気鋭なんです。オープンの際、「レセプションをやろうにも、誰を招くべきかわからない」と話していたのが印象的で、応援したい気持ちになりました。

 このお店が特徴的なのは、料理を出す前に、1皿ごとにハガキ大のトリセツみたいなカードが出てくること。そこには使用食材、ハーブ、香辛料、組み合わせなど、作り方の流れや料理に込めた思いみたいなことが全部書いてあります。そのカードと一緒に小瓶に入った珍しい香辛料やハーブ、食材なども出てきて、それらを読んだり、香りを嗅いだりしながら料理が出てくるのを待つんです。

東京のレストランシーンに一番詳しい、小石原はるかさん

 経歴と同じく斬新な手法ですが、料理を正確に理解して欲しいという思いがそうさせてるんですね。一般的なフレンチの場合、コースで7、8皿食べていると、どうしても後半の記憶ばかり残って、前半が薄まってしまうじゃないですか。それをどうにかしたいという思いから始めたそうです。今までいなかった、早熟の奇才タイプだなあ、と。