──下町がブームといわれて久しいですが、最近その様相が変わってきたように思います。かつては昭和回顧録的な店を探していたのが、下町に最先端の店がたくさん出来てきて、新しい楽しみ方が出来るようになってきた。それを象徴するのが、食いしん坊のあいだでいわれている「総武線の3K」という言葉。錦糸町・亀戸・小岩に美味しい店が多いということなんですが、それを最初に言い出した食ライターの小石原はるかさんと、脚本家の伴一彦さん、元「酒とつまみ」編集長の大竹聡さんの3人に下町グルメの面白さを語ってもらいました。
小石原 そうですね。去年、グルメ雑誌『食楽』夏号で私が書いたのが初めてだと思います。ちょっと前から、亀戸や錦糸町、小岩に通う機会が多くなってこの界隈が非常におもしろいと思っていたので、駅の頭文字をとって“総武線の3K”だと編集担当者に話したらおもしろがって、そのまま企画になったんですよ。
もともと浅草方面にはよく出没していたのですが、ここ数年、三社祭のお神輿担ぎの応援をするようになって、さらに浅草方面に行く回数が飛躍的に増えて、東京の右半分に足が向くようになったんです。亀戸にイタリア料理「メゼババ」が出来たことも右半分に注目するようになった理由のひとつですね。
小石原 メゼババはいいですよ。あそこだけ異質で、イタリアの空気が流れている。でも、人気が出すぎて、予約が取れないんですよね。
とにかく、去年は総武線にすごく乗った年でした。たまたま『ブルータス』の商店街特集(2016.08.01発行のNo. 829 酒場のある商店街へ。)で原稿を書くことになり、亀戸担当になったんですね。総武線に毎日のように乗って亀戸を相当歩き回ったんですけど、亀戸はホルモン焼き屋がたくさんあるんですよね。なかでも「亀戸ホルモン」と「ホルモン青木」の二大勢力がしのぎを削っているんです。お馴染みの「亀戸ぎょうざ」もありますし、本当にいいところですよね。
大竹 僕は長い間、馬喰町に仕事場があったので、浅草橋界隈でずっとよく飲んでいたんです。毎日同じ仲間と定点観測的に回っていたのが、「ちゃんこ成山」と「西口やきとん」ですね。西口やきとんは今は移転しているんですが、僕が30歳くらいの時にガード下にあったんです。ガード下からモクモク上がる煙にサラリーマンたちが吸い寄せられるのを見ると、僕も彼らの後ろを追うようにして並んでモツ焼きを食っていた。
小石原 浅草橋といえば「ふじ芳」のうずら鍋がおいしいですよね。小料理屋のような店構えで2階がお座敷になってて、うずらのミンチをメロンパンみたいにきれいに格子の模様を入れて盛り付けた鍋が名物。冬になると、あの肉のメロンパンが食べたくなる(笑)。
大竹 浅草橋の線路の北側、鳥越神社のそばに鶴の湯という銭湯があって、一番湯に入って気持ちいいねって出てくる、と5時ぴったりに隣の「鈴木酒場」がのれんを出すんですよね。そこへ吸い込まれるように入っていく(笑)。
終電に詳しいおばちゃんのいる居酒屋
伴 僕は新小岩に30年以上住んでいます。でも、これまでほとんど地元で飲み食いしてこなかったのですが、最近開拓してみようかなと思っています。ずいぶん新しい店が出来ましたからね。実は小岩と新小岩って近いんだけど、別の街なんです。小岩は古い町並みで、ベトナム料理、タイ料理、韓国料理が多い町というイメージですが、新小岩って新しい町なんですよね。錦糸町は更に都会で、何でもある印象です。
小石原 錦糸町は昼も夜も北も南も充実してますよね。丸井もステーションビルテルミナもすみだトリニティホールもあるんですが、その間を縫うように濃い店がびっしりあるんですよね。
伴 タイ料理も多いんですか?
小石原 エスニック系は多いですね。「タイランド」というタイの食材屋と食堂が一緒になったような店が有名ですよね。インド料理屋も多くて、南インド料理の名人、ヴェヌゴパールさんが開いた「ヴェヌス サウス インディアン ダイニング」が人気ですね。「東京穆斯林飯店」というムスリムの方向けの羊が中心の中華料理店もあったりします。
大竹 錦糸町なら「なすび」がいいですよ。
小石原 えーっ、知りません。至急調べます、どこですか?
大竹 40数年南口でやっていて、今は北口。居酒屋ですが、うまいよ~。
小石原 行く気まんまんです(笑)。このまま半蔵門線に乗って行きかねない感じです!
伴 湖南料理の「李湘潭」もいいですよ。ビーフンがたくさん種類があって、楽しかった。
小石原 私も「李湘潭」大好きです。ビーフン最高ですよね、平麺も丸麺も、和えも汁も焼きもあって。あそこでパクチー女子会プランを利用して宴会したい(笑)。
伴 ここの炒飯、「新福菜館」のに似ていて黒いんです。おいしかったなあ。
小石原 やっぱりエスニック系多いですよね。家賃が安いから、開業しやすいんですよね。