えこひいきはあったっていい
伴 新小岩だと、家の近所で「酉笑」という焼き鳥屋を見つけて妻とよく行っています。有名店ほどではないのですが、普段使いにいい店なんです。
小石原 焼き鳥って「今日どうしても食べたい!」って気分になりがちなので、1カ月先に予約しなきゃいけないお店なんかは、どうもイライラしますよね。
伴 以前シナリオの勉強会を新小岩でやっていた時、その後の飲み会で「鳥益」という居酒屋をよく使っていました。その店、終電に詳しいおばちゃんがいて、「○○駅なら何時に乗ればいいよ」と終電を教えてくれるんです。
あと、みんな門前仲町のほうしか知らないけれど、新小岩には「魚三酒場」もあるんですよ。
大竹 魚三は新小岩と門前仲町と森下の3カ所ですけど、本店の門仲は店の人、恐いよね。
小石原 店のお姐さんたちが本当に恐い(笑)。あと、ドリップコーヒーで有名な南千住の喫茶「バッハ」と居酒屋「丸千葉」の近くにある「大林酒場」のご主人も恐いとよく聞きますね。喋っても喋らなくても怒られた、という知人が(笑)。
大竹 いや、あのご主人は本来、とても穏やかな方なんですよ。ただ自分たちのやり方に対して理解のない異物が来た時の反応が極めて鮮烈なんです。
小石原 知人は、うるさいと怒られるから、1人で行って本を読んでいたんですけど、それでも怒られたそうです(笑)。本なんて読んでないで酒を飲めということなんでしょうね。その洗礼を乗り越えたら、打ち解けられるんですかね。
大竹 そうだと思いますよ。
小石原 立石の「鳥房」のお姐さんも恐いです(笑)。
大竹 彼女はたしかに恐いけど、「うまく食べられないんだ~」とかって甘えると「何やってんのよ、取り分けてあげるわよ~」とか言いながら、取り分けてくれるんだよ。仲良くなると「ワイン飲む?」とか聞いてくるから「うん、飲む~」ってぐいぐい甘えていくといい(笑)。
立石ブームはかれこれ10年近く続いていますよね。「宇ち多゛ (うちだ)に行ってきました」とブログに書きたいばかりに、全国から人が集まってきてる。
小石原 「宇ち入りなう」的なことが起きてるわけですね。
伴 「宇ち入り」というんですか?
小石原 はい。宇ち多゛に行くことを「宇ち入り」と言うんです。あと、立石は飲酒してると入れない店も多いですよね。「宇ち多゛」も「鳥房」もそう。だから立石で酒場巡りをする人は、どちらに先に行くかで悩むという話を聞いたことがあります。「宇ち多゛」は頼める酒の量に上限があるから、強い人なら「宇ち多゛」で飲んだ後に「鳥房」に行って、飲んでないと言い張るみたいですけど(笑)。
大竹 いいところまで飲んだら「そろそろ引き上げた方がいいんじゃないですか?」と店側がお客に言えるのは古い酒場ならではですよね。
伴 でも常連さんと行くと全然違いますよね。以前、「まるます家」に常連さんと一緒に行った時は5時間くらいいました。
小石原 それって一見ではありえない応対ですよね(笑)。でも、そういうえこひいきは、あってしかるべきだなと思うんですね。通うって愛ですもんね。愛をちゃんと表明した人に対してやさしくなるというのは人の心理として当然だなと思います。私の場合、「丸千葉」には愛を“告って”しまっていますねえ。唯一ボトルキープしている店です。
大竹 あそこはいい店だもんな~。ちょっとうろうろしていると、吉原に迷い込んでしまう立地もいいし。そうそう、十条の「斎藤酒場」もいいですよね。銭湯の帰りで洗面器をもった人がゆっくり飲んでいるんですよね。
構成=山下久猛(フリーライター)
★まだまだある「総武線の3K」グルメ@編集部推薦
板前 石山光一(亀戸)
亀戸にある割烹。魚料理中心で、コース、アラカルトともに楽しい。食べて飲んで1万円くらい。接待よりも親しい仲間同士の会食にいい。
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131202/13090121/
はせ川(錦糸町)
天ぷら料理。関西風の衣が薄い天ぷらが特徴で、小さい巻海老がおいしい。
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131201/13143482/
香城味都 鶏公煲(新小岩)
中国で人気の火鍋の店。鍋といってもスープが少なめで食材を絡めながら食べる新しいタイプ。中国人で満員の店。
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131204/13185091/
○小石原はるか 1972年東京生まれ。一度ハマると歯止めの利かないマニアックな気質と頑強な胃袋で、これまでにスターバックス、さぬきうどん、料理人、ホルモン、発酵食品などにどっぷりとハマってきた、人呼んで"偏愛系ライター"。著書に『スターバックス・マニアックス』(小学館文庫)、『麹の「生きた力」を引き出す本』(共著・青春スーパーブックス) 、『レストランをめぐる冒険』(小学館)、『東京最高のレストラン2017』(共著・ぴあ)、『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)など。
○大竹聡 東京三鷹生まれ。フリーライター。元「酒とつまみ」編集長。酒と酒場のことばかり書いている53歳。近著に『五〇年酒場へ行こう』(新潮社)『多摩川飲み下り』(ちくま文庫)など。
○伴一彦 脚本家。主なテレビ作品に『パパはニュースキャスター』『ストレートニュース』『喰いタン』など作品多数。「JKニンジャガールズ」舞台版が2月23日から、同映画版が7月17日から公開。ビストロ料理、タイ料理、坦々麺、赤ワイン好き。