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「東大のレギュラーは4年で他大学の補欠より上手くなる」「甲子園最大の問題は“一票の格差”」 元東大野球部監督が語る“勝利至上主義”のホントの弊害

スポーツ「勝利至上主義」は悪なのか #1 

2022/05/01
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浜田氏が提唱する“二道流”とは?

 浜田氏は、最近の高校野球への熱狂が変質してきたことを感じている。

「以前は夏の甲子園は生まれ故郷、地元を意識する大会でした。ところが、いつからか『プロ予備軍』を見る大会に変容してきたように思います」

 強豪校であればあるほど、選手たちはプロへとつながるストーリーの中に組み込まれる。今年の春のセンバツでは大阪桐蔭が圧勝を続けたことからも明らかなように、戦力差は拡大し続けている。果たして、このままでいいのだろうか?

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 コロナ禍をきっかけにして、様々な価値観が見直されているが、浜田氏はいまがスポーツ界の文法が見直される契機と考えている。

「これまで近代の日本の文化が大きく変わったのは、2つの“黒船”がやってきた時です。ひとつは1853年のペリーの来航。そしてもうひとつは1945年に厚木にマッカーサーが降り立った時です。このふたりは日本の社会制度を大きく変えました。もしも、令和の黒船があるとしたら――それは日本国内から起きなければならず、私はスポーツにその可能性があると思っています」

 全柔連の全国小学生学年別柔道大会の廃止に対しては、スポーツ庁の室伏広治長官や、「侍ハードラー」として知られた陸上競技の為末大氏などが賛同を示している。

©文藝春秋

 浜田氏が推奨するのは、二刀流ならぬ「二道流」だ。さて、「二道」とはいったいなにを示すのか?

「過度な競争を避けるという意味もありますが、そもそもの教育の価値を考えて欲しいんです。私は、学校教育の意義は『アイデンティティの醸成』にあると思っています。だからこそ、自分の適性を発見するためにいろいろなことにチャレンジする。『二道』というのは、書道と剣道の両立と書くと分かりやすいでしょうか。“ふたつの道を究めていく”ということです。だから、スポーツの世界でも、体が成長している間は野球と陸上であったり、学校生活の中でいろいろな部活にチャレンジして、自分に向いているものを探す。そこに価値があると思っています」

 そして体の成長が落ちつき、それでもなお大学でもスポーツを続けたい――。そう思うことができたなら、プロや実業団といった、より高いレベルを目指して自分を追い込んでいくのも一つの道だろう。

「東大のレギュラーは4年で他大学の補欠より上手くなる」「甲子園最大の問題は“一票の格差”」 元東大野球部監督が語る“勝利至上主義”のホントの弊害

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