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定職なし&借金ありでも「何とかなる」…松尾諭が崖っぷちの上京生活を乗り越えられたワケ

俳優・松尾諭さんインタビュー<前編>

2022/06/07

source : 文春コミック

genre : エンタメ, 芸能, 映画, 読書

note

松尾 ただ、僕は「がめつい」っていうのが根底にあるような気がします。時間のある時にはちょっと脚本を書いてみよう、と思ったり、バイトを増やそう、と思ったり……ただぼうっと待っていることはなかったですね。

 撮影現場でも、休憩時間に監督や先輩に話しかけにいったりしてました。せっかく同じ作品に携わるなら、役者・監督・スタッフ問わず仲良くなりたいですよね。特に昔はそういう空気感が強かったですし、僕がラグビーやってたからなのかもしれないです。学生の頃も、上級生に話しかけにいくことが多かったですね。ちなみに友人からは「松尾は人の心に土足で上がりこんでくる」とよく言われていました。

 今も基本的に変わらなくて、連ドラでゲストに来た人に真っ先に話しかけに行くタイプです。その人のためというより、多分僕が一番話したいんですよね。仕事をしにいくより、人と喋りにいってるとよく言われます(笑)。

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©文藝春秋

――目上の人に可愛がられる才能があるのかもしれないですね。

松尾 それも、僕のがめつい精神の表れだと思います。飯をおごってもらうとか、飲み屋に連れてってもらうとか、そういう浅ましい根性が根底に流れてるからじゃないのかな。

 あと、目上の人に怒られたいし、教えを乞いたい。「だからお前は駄目なんだ」とか「いいね、君」とも言ってもらいたい。自分は「100%正しい人間」ではないと思っているので、それを正してもらいたいという気持ちがずっとあります。ラグビーをやっていた頃から、「かわいがって〜!」っていう気持ちで目上の人に話しかけにいってます(笑)。

演技にハマりすぎて相手の女優さんを好きになってしまい…

――『拾われた男』では、目上の人だけでなく沢山の女性にもアプローチしていましたね。相手に感情移入しやすい方なのかな、という印象を受けました。

松尾 単純に好きになりやすいってだけですね。やっぱり女優さんって、綺麗じゃないですか。演技でずーっと見てると、ちょっと好きになりますよね(笑)。ほかにも一度、ストーカーの役で相手の女優さんを見続ける演技をしたことがあるんです。オールアップの後にその女優さんに「好きになっちゃいました」って言ったら「気持ち悪っ!」って返されました。

――惚れやすいんですね(笑)。今はどうなんでしょうか?

松尾 「この人いいな、もっと喋りたいな」と思う人は男女問わずいて、ちょっとした恋心に近いのかな、と思います。でも、今は妻という存在がいるので。妻は初めて「一生守っていきたい」と思った女性なんです。当時の借金については、未だに嫌な顔をされますけどね(笑)。

答えを求めて「お兄さん」について書いてみたけれど…

――そんな松尾さんですが、アメリカで倒れたお兄さんとは長らく疎遠だったそうですね。

松尾 兄については、本に書こうとは元々思っていませんでした。でも、ある監督とごはんを食べた時に兄の話をしたら「それを書いたら、多分映像化できるよ」って言われたんです。映像化したいと思って書いたわけではないんですけど、それがきっかけにはなりました。

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 兄に対する思いがよく分からなくて、気持ち悪いままだったんですよね。兄との関係性を見つめ直して、文章にすることで「何か答えが見つかるんじゃないか」と思ったんです。でも、結局何も見つかりませんでした。

 思い返してみると家では母以外みんな無口で、印象的な会話や思い出がない。ちょっと冷たい印象を受けるかもしれないですけど、自分の中に家族に関してはっきりしたものがないから、うまく説明できないまま文章にしています。具体的な出来事も削いでいるので、読者にちょっと想像してもらえたら嬉しいです。