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【「かんなみ新地」尼崎市が土地取得へ】「売春はどんな場合でもあかんで」解散した“戦後を残す色街”かんなみ新地に「いまも残る人々」とは《現地ルポ》

【「かんなみ新地」尼崎市が土地取得へ】「売春はどんな場合でもあかんで」解散した“戦後を残す色街”かんなみ新地に「いまも残る人々」とは《現地ルポ》

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2022/06/04

genre : ニュース, 社会

note

 そう。ここは阪神タイガースのお膝元。人懐っこい町なのだ。

 尼崎中央商店街は、やがてスーパーや生活雑貨の店が増えてきて、負けず劣らず賑やかな三和本通商店街と交差する。

アーケード商店街からすぐ「戦後が見事に残ってる」

 すぐ近くに、1936年(昭和11)に鳴り物入りで誕生した三和市場などいくつもの市場がある。一帯は、戦後一大ヤミ市となり、他都市と比べて警察の取り締まりが緩やかなこともあって、生活物資がどんどん集まり、買い出しにやってくる人たちで黒山の人だかりとなったそうだ。三和本通り商店街は、そんなヤミ市の人出をあてこんで後発で出来たらしい。いずれも「昭和50年くらいまで、まっすぐに歩けんかった」ほど賑わったと聞くが、今は、三和本通り商店街以外にはシャッターが下りまくっている。

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尼崎中央商店街

 そんなふうに周辺もひと回りし、アーケードの最奥を出る。

 と、いきなり目に飛び込んできた。かんなみ新地のあの建物が。Aくんの「戦後が見事に残ってる」発言も、Bさんが「こんなところにこんな場所が」と言ったのも、実に正しかった。

 3階建てないし2階建ての木造モルタル造りの一続きの建物が、道路に沿って30メートルほど続いている。道路の向かい側も、建物の裏側も広々とした駐車場だ。そのためか、かんなみ新地が「独立国」だと、私の目には映った。そして、妙だが「けなげ」の3文字が頭に浮かんだ。

かんなみ新地のノボリに「お持ち帰りできます」

 1軒だけ、「お持ち帰りできます」と書いたノボリがあがり、猫が寝そべる店頭に海苔巻きを並べる店を発見。韓国の「キンパ」のような、「おにぎらず」のような。握りこぶし1つ分以上の大きさで、卵焼き、ソーセージ、ひじき、青菜などが彩りよく巻いてある。

かんなみ新地

 

「めっちゃ、おいしそうですね。10個ください」

 と張り込んでも1100円。

「わー、ありがとうございます。お味、まだアレかもしれませんので、何かあったら遠慮なく教えてくださいね」と、40代と思しきショートヘアがお似合いの女性がニコニコと。

「まだアレって?」

「作り始めてまだ新しいので」

かんなみ新地

 むむ? と思ったが、いきなりお尋ねするのは控えよう。そこへ通りがかった若者2人づれがこう言った。

「(ノボリに)お持ち帰りできます、やて」

「なんや、女の子をお持ち帰りできるんと違うんか。いらんわ」

 ショートヘア女性も私もクスッと笑った。

 おっと、道路にパトカーが停まっているじゃないか。そちらへ移動。