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「自分のお葬式のことを考えると、今から恥ずかしい」俳優・小林聡美とエッセイスト・酒井順子が語る、現代日本人の“恥の感覚”

「自分のお葬式のことを考えると、今から恥ずかしい」俳優・小林聡美とエッセイスト・酒井順子が語る、現代日本人の“恥の感覚”

『無恥の恥』より#3

2022/07/11
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インスタグラムをやらない理由

酒井 インスタグラムやツイッターをする芸能人も多いですが、小林さんはいっさいなさってないですよね。

小林 友だちが見るインスタはやってますよ、40人くらいで(笑)。

酒井 それはなぜでしょうか?

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小林 ただでさえ仕事でウソをついてるのに、これ以上盛るのは疲れるなと(笑)。酒井さんもされていないですよね。

酒井 してないですね。やっぱり恥ずかしい……。この本の中の「中年とSNS」という章が文春オンラインに転載されたとき、予想以上の勢いで拡散されて、いわゆる「バズった」のですが、面白いという反応がある一方で、SNSに連投しているようなタイプの人は怒りのコメントをしていたりして、あまりの反響にビビってしまいました。たぶん、そこに書いた「SNSが人々の眠れる自慢欲求に火をつけた」というのは、みんな内心で思っていながら言えなかったことだったのかなぁ、と。

小林 きっとそうですね。私も2年前にピアノを始めたんですけど、褒めてもらう前提で、友人にプレイの動画を送りつけてます(笑)。「わぁーすごい上手になったね~」って。「褒められる前提」ってメッセージを添えてます(笑)。

酒井 でも、小林さんのインスタを見たいという人は多いと思うのですが。

小林 いえいえ、ないです。地味で普通ですし……。

酒井 北欧調の家具に囲まれて、丁寧な暮らしでパンを焼いてらっしゃいそうなイメージがあります。

小林 なるほど(笑)。家具は、ほとんどないです。

酒井 えっ、そうなんですか。

小林 ひとりで動かせる家具しか置かないことにしてます(笑)。ベランダのプランターにも虫がこないようにネットをかけたりしてぜんぜんお洒落じゃない(笑)。インスタ映えするガーデニングというのとはちょっと違います。

いちばん他人の恥ずかしい姿を目撃している職業は?

酒井 小林さんは、俳句も詠まれますが、こちらも表現活動のひとつですよね。

小林 あ、俳句もある意味自慢行為かもしれないですね。句会でいい句を作って褒められたい、みたいな。表現するって自慢と密接(笑)。酒井さんは、俳句はなさらないんですか?

酒井 俳句も自分がそのまま出てしまうから、やっぱり恥ずかしい……。

小林 酒井さんは「年をとると恥ずかしいという感情が摩耗してくる」って書かれてましたけど、俳句もそうですよ。ついカッコいいのを作ろうとか、ちょっとおセンチな句をつくっちゃったりとか、たしかに恥ずかしいんですけど、「恥ずかしい」という自意識が過剰なのも粋じゃないですからね。「大丈夫。誰も気にしてないから」っておまじないを唱えてます。

酒井 そう思えるようになるのは、年をとって良かったことですね。そんな中でも最近、恥ずかしかったことってありますか?