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鳥集 徹
2017/12/29

家族を長年苦しませてきた認知症の問題行動が消えた! そのわけは……

親が認知症かもしれないと思ったら──高瀬義昌医師インタビュー ♯2

 今や65歳以上の5人に1人2025年には軽度認知障害(MCI)を含めると1000万人を突破すると言われている認知症患者。年末年始、久しぶりに会った親の様子がいつもとちょっと違う……。もしかして認知症?と思ったとき、家族は何ができるのでしょうか? 

 在宅医療を中心とした認知症治療で知られる、たかせクリニックの高瀬義昌先生。その活動はNHKの報道番組やTBSの「金スマ」などでもたびたび取り上げられてきましたが、暴力や被害妄想で家族を困らせていた患者さんの症状を劇的に改善して「高瀬マジック」と驚かれることがよくあるそうです。

「マジック」の種明かしの1つ目は「薬の飲み方」にありました。「週刊文春」や「文春オンライン」でもおなじみのジャーナリスト、鳥集徹さんが高瀬先生に聞く第2回です。​​(全3回の2回目 #1「親の様子がちょっとおかしい……これって単なるもの忘れ? それとも認知症?」から続く)。

◆◆◆

──高瀬先生は、今、300人以上の認知症患者の訪問診療を行っているそうですが、以前、高瀬先生に取材させてもらったときに、すごく印象的だったことがあるんです。ちょうど認知症の患者さんの往診帰りで「これ、今日の戦利品!」って机に薬の山をドサッと置いたんですね。何かと思ったら、患者さんが家に溜め込んでいた大量の薬を回収してきたところだった。

認知症の患者さんが毎日飲んでいた薬(たかせクリニック提供) 

高瀬 高齢の認知症の患者さんは、ほぼ例外なくいろいろな病気を抱えていて、複数の薬を飲んでいることが多いんですね。1日10種類以上の薬を飲んでいて「多剤併用」と呼ばれる状態になっているケースもしばしばあります。でも、副作用がゼロの薬はありません。東京大学医学部附属病院老年病科の秋下雅弘教授の研究なんだけど、お年寄りは多剤併用による副作用が特に強く出て、薬の種類が6種類以上になると、副作用の発現が急激に高まるんですね。基本的に、薬が6種類を超えたら、害のほうが強く出ると考えたほうがいいと思います。だから、訪問診療の初日に、ボクがまずやるのは患者さんが飲んでいる薬の整理です。

──皮肉なことに薬を減らしただけで、グッと症状がよくなることもあると。

高瀬 抗認知症薬というのは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の進行を抑える薬ですが、活動性に大きな影響があるんです。大声で叫んだり、暴れたり、暴言を吐いたり、逆にぐったりしてしまうこともある。そうすると、家族は「認知症のせいでこんなふうに人が変わっちゃった」って思うわけ。家族だけじゃなくて、医者もそう思っていたりするから困るんですよ。医者に「興奮して暴力をふるって困るんです」って相談すると、今度はまた興奮を鎮める向精神薬を処方する……。それで脳が混乱して、寝たきりみたいになってしまっていた患者さんもいる。抗認知症薬が悪いわけじゃなくて、大事なのは「さじ加減」なんです。

高瀬義昌さん ©三宅史郎/文藝春秋

──まさか家族も、よかれと思って飲んでいる薬が悪さをしているとは夢にも思わないでしょうね。

高瀬 以前、87歳の認知症のおじいちゃん(Aさん)を7年間奥さんが介護していたご夫婦がいました。いわゆる老老介護です。おじいちゃんは昔、大工の棟梁をしていて、自分の子供にも一回も怒ったことのないような温厚な人だったの。だけど、認知症って診断されて、いつの間にか薬が20種類以上に増えて、それからいつもイライラするようになってしまった。

──20種類も! 飲むのも一苦労ですね。

高瀬 それでもおじいちゃんは几帳面に朝昼晩欠かさず飲んでいたんです。医者に「よく眠れてますか?」と聞かれて奥さんが「そうですね。たまに眠れない日もあるようです」と答えると、「じゃあ睡眠薬を出しときましょうね」。「めまいはありませんか?」「時々ふらつくことがあるみたいです」「めまいのお薬も出しておきましょうね」という感じでどんどん薬が増えていったんだそうです。それからおじいちゃんは人が変わったようにいつもイライラするようになっちゃったものだから、医者に相談すると、「それは困りましたね。興奮を抑える薬を出しましょう」とさらに薬を増やされてしまった。グラマリール(抗精神病薬)とデパス(抗不安薬)が新たに処方されたのだけど、それを飲み始めてからまた問題が起きてしまった。

たった一晩で問題行動がピタリとおさまった

──何が起きたんですか?

高瀬 夜中の2時、3時に急に目を覚まして、大声を出したり、ベッドの手すりをドンドン叩き続けたり、手拍子で歌を歌ったり……奥さんはもう眠れないで参っちゃって。それでも医者は「薬を飲んでいるから症状がこのくらいでおさまってるんです」というものだから、医者の指示通り真面目に薬を飲み続けて、とうとう奥さんに暴力までふるうようになってしまった。日常的に杖を振り回して頭を殴られたり……ある日、奥さんを突き飛ばして腰の骨を折っちゃって、それを知った周囲の人がほかの医者に相談するように勧めたんです。それで地域包括支援センターを通じてボクのところに依頼がきた。

──そのときはどんな薬を飲んでいたんですか?

高瀬 一時よりは減っていたんだけど、それでも全部で17種類。血圧を下げる薬が3つ、胃腸薬が4つ、前立腺肥大症の薬が2つ、脂質異常症の薬、関節痛の薬……もういらない薬のオンパレード。それで、それまで飲んでいた薬を一度すべてストップして、別の6種類の薬を飲んでもらうことにしました(表1参照)。そうしたら、睡眠薬も飲まないのに朝までグッスリ! 何年も続いていた夜間の問題行動が一晩でよくなっちゃった。

 奥さんは「魔法をかけられたみたいだ」って驚いていたけど、一カ月後には暴力行動もぴたりと止んだんです。そうすると、奥さんも安心して眠れるし、昔の穏やかなご主人が戻ってきて、家の中も明るくなるでしょ。すると一気にいろんなことがよくなっていくんです。ボクが往診にいくと、おじいちゃんが自分から話しかけてくれたり、2人の出身地の新潟の「佐渡おけさ」を歌ってくれたりね。楽しかったなぁ。その後、おじいちゃんは肺炎を起こして病院に入院して亡くなったけど、奥さんや家族に見守られて安らかに旅立ったんです。

表1:Aさんが飲んでいた17種類の薬(上)と高瀬医師により減薬した後(下)のリスト(高瀬義昌『認知症、その薬をやめなさい』中の表をもとに作成)