年末年始、実家に帰省する人も多いでしょう。久しぶりに会った親の様子がいつもとちょっと違う……。これって単なる老化やもの忘れ? それとも認知症の初期症状? 認知症患者は今や65歳以上の5人に1人、2025年には軽度認知障害(MCI)を含めると国内で1000万人を突破すると言われています。
たかせクリニックの高瀬義昌先生は、認知症の在宅医療で知られ、その活動はNHKの報道番組やTBSの「金スマ」などでもたびたび取り上げられてきました。「なぜかボクは認知症の患者さんに好かれるの」と笑う高瀬先生は、暴力や被害妄想で家族を困らせていた患者さんの症状を劇的に改善して、家族やスタッフから「高瀬マジック」と驚かれることもあるそうです。
そんな高瀬先生に「週刊文春」や「文春オンライン」でもおなじみのジャーナリスト、鳥集徹さんが「認知症のイロハ」を聞きました。(全3回の1回目)。
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──まず、家族が「何かおかしい」と気づく認知症の初期症状ってどんなものなんでしょうか。
高瀬 けっこう多いのは、2つのことが同時に出来ないってことですね。2階に上がったんだけど、「あれ? 何しに2階に来たんだっけ?」と思い出せない。それからお金の計算ができなくなって、レジでお札しか出さなくなって、お財布が小銭ばかりになるとかね。季節に合った洋服が選べなくなってチグハグな恰好になるということもあります。あとは同じものを大量に買い込んでしまう。最近相談を受けたケースも、なぜかトマトばっかり何度も買ってきて、冷蔵庫の奥で3カ月前のトマトが腐って困ってたなぁ。使用済みのインシュリンの針をなぜか冷蔵庫にしまいこんでいる人もいるし……。
──いろいろなケースがあるんですね。
高瀬 あと多いのは、今まできちんとしていた人なのに、整理整頓ができなくなって、部屋にものが多くなって乱雑になる。身なりが急に汚くなるのも要注意です。車をあちこちでぶつけるようになったり。
物忘れと認知症の決定的な違いとは?
──単なるもの忘れと、認知症って何が違うんでしょう。
高瀬 認知症の原因となる病気って実は80種類くらいあると言われてるんです。特に知られているのは1906年にアルツハイマー先生が発見したアルツハイマー型認知症で、日本に200万人弱いるだろうと推計されています。アルツハイマー型の認知症の特徴は、エピソードをまるごと忘れちゃうの。たとえば、昨日の朝飯に何を食べたか思い出せないってことあるでしょう。これは単なるもの忘れだけど、認知症は、朝飯を食べたということ自体を忘れちゃうわけ。これを「エピソード記憶障害」といいます。「朝飯を食べたことを忘れるぐらいは朝飯前」っていうのがボクのキャッチフレーズなんだけどね(笑)。
──じゃあ、年をとると「よく最近人の名前が思い出せなくなった」「うっかり忘れ物をよくするようになった」なんてことがあると思うんですけど、それくらいだったら認知症ではないということですね。
高瀬 老化とともにもの忘れが増えるのはごく自然なことです。ボクも、認知症の患者さんに「先生、今度は聴診器忘れないでくださいね」って心配されてるから(笑)。
たかせクリニックの秘書さん ……先生、今、カメラマンさんが写真撮ってくださってますけど、髪の毛、寝ぐせではねてますよ。直したほうがいいんじゃないですか。
高瀬 そう? なにもしてこなかったからなぁ。
──高瀬先生は普段から白衣も着ないですし、「ありのままで」ってことでいいんじゃないでしょうか(笑)。
高瀬 だよねぇ。たとえば、昨日まで入院していたのに、そのことをまるっきり覚えてない。ヒントを出しても思い出せない。それが一発あると、ああこれはアルツハイマーだろうなぁと思いますね。
ある患者さんは、診察中に粗相をして奥さんと一緒に絨毯を捨てたのに、翌日「先生たいへん! 絨毯を盗まれた」って電話がかかってきたということもありました。ものがなくなったときに、自分で探すのはもの忘れ。「誰かに盗まれた」って疑うのが認知症です。あと「作話(さくわ)」っていうんだけど、途切れ途切れの記憶しかないから、自分の中で辻褄を合わせるために作り話をするんだよね。みんなこれを「また嘘ばっかり言って」って怒っちゃうんだけど、怒っちゃダメで、「もしかしたらアルツハイマーかな」って疑ったほうがいいわけね。
ただ、初期の認知症は専門医でも見逃すくらい診断が難しい。一見、受け答えはしっかりしているし、百人一首を全部記憶している人やポルシェのマニュアル運転ができる人もいるからね。