1ページ目から読む
2/3ページ目

──先ほど認知症には80種類くらいあるとおっしゃっていましたが、よく知られているアルツハイマー型のほかにいろいろ種類があるわけですね。

高瀬 そうです。その中にレビー小体型認知症というのがあって、これは他の病気に誤診されているケースも多い。夢遊病みたいに夜中じゅうウロウロして、朝になるとケロッとしていたり、実際に存在しないものが見えるといった症状が出ます。薬を飲むことでかえって病気を悪化させるという特徴もあります。類似疾患であるパーキンソン病の症状が出ることもあって、片一方の手だけ震えているというのがレビー小体型認知症の初期症状だったりします。いずれにしても、専門の病院できちんとCTやMRI検査をして、診断してもらう必要がありますね。

──しかし、そうはいってもお年寄りにはプライドもありますから、なかなか「お父さん、最近ボケたみたいだから病院で一度診てもらおうよ」と言っても、「親をバカにするな!」とへそを曲げて言うことを素直に聞かない人も多いんじゃないですか?

ADVERTISEMENT

高瀬 そういうときはコツがあるの。どうやるかというとね、「脳ドックって知ってる? お年寄りはみんなやった方がいいみたいよ。MRIを撮ると100人に98人には小さな脳梗塞とか何かしらみつかるから。でも脳ドックって5、6万、高いところだと20万もかかるんだって!」と話をもちかけるわけ。

──ふむふむ。

高瀬 そして、そこですかさず「でも、もの忘れ外来だと、2、3万でお得に検査できちゃうんだって。どっちがいい? 内容はほとんど変わらないよ」というふうに話をもっていくんです。

──なるほどね。

親を専門病院や専門外来に連れていくにはコツが必要 ©iStock

MRIの台から逃走した患者さんも

高瀬 そうはいってもMRIの検査台から逃走した患者さんもいたけどね(笑)。ウチのおふくろもなかなか言うこと聞かないのよ。

──うまくやるにはどうしたらいいんですかね。

高瀬 やっぱり慌てずに丁寧にやることだよね。できれば、ふだんからかかりつけ医をもつようにして、いざというときに専門病院に紹介状を書いてもらって、ベストのタイミングでかかりつけ医から専門病院にキラーパスを出すのが理想的。認知症の患者さんは、外に出たがらなくなって、「ひきこもり」のような状態になってしまっていることが多い。でも、「外に出なきゃダメよ。病院に行かなくちゃダメよ」という直線的なリニアアプローチではうまくいかない。精神科医の斎藤環先生の『社会的ひきこもり』って本があるけれど、あそこに書いてあるのと要領は同じなの。サーキュラー(円環型)アプローチといって、アリ地獄に落ちていくようにグルグルと悪循環に陥っているのを、いろいろな仕掛けを使って逆回ししてほぐしてあげるわけ。

──例えばどんな仕掛けなんですか。

高瀬 特別なことじゃなくていいの。たとえば食欲がなくなって、食べるのも面倒で、体重が40キロくらいまで落ちてしまったおばあちゃんがいるでしょう。そういうときに、頭ごなしに「食べなきゃダメでしょ!」って叱るのではなくて、おばあちゃんの好きだった料理やお気に入りの場所をヒントに「最近、〇〇の××が美味しいって評判なんだって。今度食べにいかない?」と家族から誘ってみる。それで10キロも体重が増えたケースもありました。ボクがやっているのは在宅医療だから、患者さん個人を相手にするのではなく、家族まるごとで考える。ひいては地元のケアマネジャーや支援センターなど地域包括ケアシステムに組み込んでいくことを目指しています。