馬渕監督の心の叫び
「大会がなくなったからというんで、自暴自棄になり、目標を失ってふにゃふにゃの人間になったりしたらあかんど。まだまだ将来につながるんやから。新しい目標を立てて野球続ける者もおるだろうし、高校3年間で終わって進学して違った道に行く者もおれば、就職する者もおると思う。けど、必ず、今の親元を離れて寮生活をして打ち込んだものが、絶対どこかで生きてくるんやから。
よその学校に比べたらまだ恵まれていると言ったらおかしいけど、四国大会でチャンピオンになり、神宮大会という全国大会の経験ができたというのは唯一の救いや。胸張っていいと思うけど、新しい目標を設定して、そこに向かってやっていかなならん。
だから、今の時期で『甲子園がなくなった。はい新チームに切り替えます』というようなことはしない。まだ高知県で大会に代わるようなものも考えてくれているみたいなので、とにかくやれることを最後までやっていく。
ええか、これでOB気分になって『終わった、終わった』じゃないんだぞ。3年生も夏休みまでは、自分の目標に向かってしっかりやって、グラウンドには普通通りの時間に出て、普段通りの練習をやる。
忘れんなよ。世の中に出ていろんな苦しいことがあったときに、耐えていける精神力をつけるというのが高校野球なんや。こういう苦しいときほど、人間は試されるんで。甲子園だけがすべてじゃないんやから。人生、甲子園に行けない人間のほうが多いんやから。全員が気持ち切り替えてやっていかないと。
それでも最後まで同じ仲間とグラウンドでやれたというのが財産やから。10年、20年経って、『あのとき、自分らの代は地方大会がなかった。試す場所がなかった』ということが、きっと役に立つときがあるから。
これで気持ちを切り替えるのは難しいかもしれんが、次のステップにみんなが進んでいくようにしよう。今の状況は命に関わることやから。最近は若い者でも重症になったり命がなくなったりする者もおるんで。他の人にうつしたりする心配もある。
地方大会がなくなったというのも、移動と審判員の安全。それと、今は医療態勢が崩壊しかかっているやろ。球場に医者を派遣するだけの余裕がないと言われている。高知県だけじゃない、甲子園もそうや。みんなを守ろうということよ、要するに。コロナから守ろうということで、大会をなくしたほうがいいんじゃないかということ。そういうとらえ方をせな、いかんのじゃないかな。
今、ぱっといい言葉が出てこないけど、自分も高校野球やった人間やから。でも、俺らは負けて、それで高校野球に区切りをつけたんや。それがない分だけ、つらいわな。気持ちはようわかる。親御さんもそういう気持ちだったと思う。そういう関係者のことも考えたら非常につらい。気持ち切り替えてくれとしか言いようがない。
頑張ってやれよ、こっからだぞ。こっからが出発点だ。何も終着駅じゃないよ。こっから出発点だ。気持ち切り替えてやっていけよ、ええか」
馬淵自身の、まるで心からの叫びのようなメッセージだった。