「お前ら、甲子園はもうあきらめろ」――野球部を何度も甲子園に導き、誰よりも選手のことを考えてきた龍谷大平安高校の原田英彦監督は、なぜ残酷な言葉を吐かざるを得なかったのか?

 第102回全国高等学校野球選手権大会の開催中止となった2020年のエピソードを、スポーツジャーナリストの小山宣宏氏の新刊『コロナに翻弄された甲子園 名将たちが伝えたかったこと』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

選手たちに残酷な事実を伝え原田監督の真意とは? ©iStock.com

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「お前ら、甲子園はもうあきらめろ」

 2020年5月20日、日本高野連から厳しい現実を突きつけられる発表があった。

 第102回全国高等学校野球選手権大会の開催中止――。

 この一報を聞いた原田は、監督として選手全員にどう伝えたらいいのか、結論を出せずにいた。不祥事で大会に出場できないわけでもなく、そうかと言って誰のせいでもない。新型コロナウイルスという得体の知れない疫病によって、選手、とりわけ3年生が甲子園に出場できる可能性の芽を摘み取られてしまったからだ。

「ああ言おう、いや、こう言うたほうがええかな……」

 どう伝えたらいいのか、悩みに悩んだ挙句、夏の甲子園大会の中止が決定した直後、原田は選手全員を招集し、覚悟を決めてこう言った。

「お前ら、甲子園はもうあきらめろ」

 耳にすると、きつい言葉のように聞こえるかもしれないと思ったが、原田は現実を直視させるべきだと考え、ストレートなものの言い方をした。だが、選手は全員、原田にじっと視線を向けていて、泣いている者は1人もいなかった。この光景を目の当たりにした原田は、「自分が考えている以上に選手は大人だった」と感服した。

 さらに原田は続けた。

龍谷大平安・野球部監督の原田英彦氏(写真:筆者撮影)

「あきらめることも大切や。どうしようもないことなのかもしれないけれども、コロナばかりは仕方がない。今のままだと立ち止まったままで、一向に前に進んでいかない。だからあきらめることで新たに目標を作って次に進んで行かなあかん」

 龍谷大平安野球部は選手を獲るにあたって、積極的にスカウティング活動をしているわけではない。「平安で野球をやりたい」と希望した選手が、硬式野球部の学生だけで編成されたアスリートコースに合格した後に入部する。

「うちは野球だけでなく、普段から礼儀や言葉づかいなんかも細かく注意したりする。へたしたらどこよりも厳しい環境で野球をやることになるかもしれないんだぞ」

 原田はこう入部希望者に問うのだが、「もちろんです。自分は厳しい環境で育ててもらえると思って、平安野球部を選んだんです」

 全員がそう答えてくれる。そんな龍谷大平安野球部を愛してやまない選手たちに、「この子たちに晴れの舞台を踏ませてあげたい」と原田自身が強く願っていた。それだけに、選手全員に「甲子園はあきらめろ」と残酷すぎる言葉を吐くことは、原田自身もそのつらさを痛感していた。