誰しもがいつ巻き込まれるか分からない交通事故。高齢者、あおり運転、飲酒、無免許……。事故の原因はさまざまだが、身近な不幸ゆえに報道は過熱し被疑者に対する世論も沸騰しがちだ。

 また、事故後には賠償金の支払いなどをめぐるトラブルも多い。車両同士であれば過失の割合について事故の当事者間で争いになり、保険会社と保険金支払いをめぐる争いも頻発する。時には億を超える金が動くため、その争いは熾烈を極める。

 そんな切った張ったの現場において、縁の下の力持ちとして注目を集めるのが「交通事故鑑定人」。あまり聞き慣れないが、交通トラブルでは弁護士以上の力を発揮することもある交通事故分析のスペシャリストだ。

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日本に20人程度しかいない「交通事故鑑定人」

「事故が起こると警察は実況見分調書を作ります。私たちはその調書を紐解いて事故の原因を探ったり、ドライブレコーダーの解析をしたりして真実を追求するんです。そして法廷に提出する『交通事故鑑定書』を作成します」

 そう解説するのは、千葉市で「交通事故調査解析事務所」を営む熊谷宗徳氏。熊谷氏は元千葉県警の警察官。交通畑を20年以上歩んだ後、退職して交通事故鑑定人になった。

熊谷宗徳氏

 交通事故鑑定人になるために必要な資格などはないため誰でも名乗ることができるが、交通事故の諸問題に関する深い知識が必要なため、熊谷氏が知る限りでは日本に20人程度しかいないという。元警察官から大学教授、土建業者まで、その経歴は幅広い。

「保険会社の事故調査をする『アジャスター』という職もあるのですが、保険会社が有利なように調査しがちなんです。だから保険会社から納得のいく保険金を支払われなかった方々が、私たちに『事故の真相を明らかにしてほしい』と依頼してくださるわけです。

 ただ、鑑定人のなかには明らかにクライアントの思い通りになるようなエセ鑑定をする人間もいます。私は絶対にそのようなことはしませんが、大金と、そして様々な人間ドラマが渦巻く現場ですから、一筋縄ではいきませんよ」

 全国各地から相談が相次ぐ熊谷氏が、交通事故鑑定人の実態を明かした。