議論をするためには、その前提になる認識の共有がとても大切だ。これがずれてしまっていると、議論はいつまでたっても平行線のままになってしまう。いま、国会でもメディアの中でも、政治の議論がかみあっていないのは、この認識共有ができていないからではないかとつねづね感じている。
この背景には、テクノロジーの進化や近代という時代の終わりでいろんなことが移り変わっているのに、わたしたちの認識がうまくアップデートされていないという問題があるのではないかと私は考えている。そこで2018年をはじめるに当たって、もっとも基本的な世界の認識について、実は大きくアップデートすべき点があることを書きたい。
そのアップデートすべき点とは、「パワーとは何か」という認識の問題だ。
2030年、覇権国家は存在しなくなる
国際社会でいえば、アメリカが唯一の超大国として、圧倒的なパワーだった時代はそろそろ終わろうとしている。中国が台頭し、ロシアも暗躍し、EUではドイツが力をつけてきているけれども、どこかの国が強い覇権を握るというのは難しくなっている。少し前の話になるけれど、2012年にアメリカの国家情報会議(National Intelligence Council、略称NIC)という政府機関が「グローバルトレンド2030」http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/016.htmlというレポートを発表したことがあった。2030年に世界はどうなっているのかを予測したものだ。
このレポートでは、2030年にはパワーが拡散し、以前のアメリカのような覇権国家はもう存在しなくなると言っている。中国のような新興国が強くなるだけではない。国家以外にもNGO(非政府組織)や企業など、それらの存在が相互に作用して、多角的で決まった形を持たないネットワークのようなものを形づくって、それが大きなパワーを持つようになるのだと書いているのだ。
多極化とネットワーク、連合体が2030年のイメージなのだ。言い換えれば、相互作用の時代なのである。
「権力者と反権力」の対立は成立しなくなる
同じような指摘をしている「権力の終焉」(モイセス・ナイム)という本がある。2013年に刊行されて、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグが選書する「ブッククラブ」の栄えある第1回課題書にえらばれた。邦訳は2015年に日経BPから出ている。紹介文から引用すると、「経済、政治、社会、ビジネスなど、あらゆる分野における権力衰退の要因と影響を明らかにする」ということが書かれている本だ。
これまでの国民国家のパワーはつねに「上意下達」だった。大統領や首相から独裁者に至るまで、上座にいる権力者が国民に上から指示し命令し、規範を押しつけた。管理する権力者側とされる側は、分離した存在だった。だから「殺す側と殺される側」「権力者と反権力」といった対決の論理が成立したのだと言える。この二項対立で社会や政治を語る人は、いまの日本にもたくさんいる。