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東京“脱出組”の受け皿に、地方都市がなるための「3つの新条件」

2022/10/18
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 日本における衛星都市は、欧米などで発達した衛星都市(Satellite City)とは異なり、これまではベッドタウンに過ぎなかった。衛星都市の中に働き場が少なく、この街に住む多くの人々は、衛星都市の中にある鉄道駅を利用して、東京などの大都市に通勤するという生活スタイルを前提としてきたのがこれまでの衛星都市だ。

 ところが通勤が必ずしも日常でなくなりはじめたこれからは、衛星都市の存在意義が問い直されることになる。一日の多くをすごす都市として、人々の支持をとりつけることができるのかが問われている。

今までの衛星都市の姿

 現代の多くの衛星都市の姿は街の中心部に、東京などの母都市につながる鉄道の駅や母都市につながる国道や高速道路がある。駅ビルがあってJRや私鉄ブランドの大型商業施設が、駅前にはドラッグストアやクリニック、飲食店、物販店、学習塾などが入った小ぶりのビルが立ち並ぶ。

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©iStock.com

 朝は多くの通勤客が駅へと歩みを速めて通過するだけ。昼間は専業主婦たちの買いもの、夕方以降は帰りがけに立ち寄る通勤客による買いものや、学習塾に通う生徒たち、その送り迎えの親たちなどが集まる、そんな姿が日常だ。休日といえば、買いものに家族連れやカップルの姿が増える、商業施設内でランチやディナー、シネコンで映画を楽しむ、カフェで語らう。そんな程度だ。

 だがこれからの衛星都市の姿はこれまでとはかなり異なるものとなる。まず東京などの母都市に毎朝通勤することが少なくなる。基本的に自宅または衛星都市内に設けられたコワーキング施設で働く。コワーキングであるから、同じオフィス空間内でもそこに集まる人々の会社や職業は千差万別だ。唯一の共通点と言えば、同じわが街に住んでいるということだ。

会社にどっぷり浸かった生活は消滅

 夫婦共働きは、今や生活単位において常識である。同じコワーキング施設内で、夫婦がそれぞれ違う仕事を行い、早く仕事を終えたほうから子供を迎えに行く、買い物をすませておく、という生活スタイルになる。

 東京に出向き、会社という組織体の中で働き、同じ組織内の人間とだけつきあうために、仕事帰りに同僚と酒を飲む、食事をするという、所属する会社にどっぷりと浸かった生活パターンだったものが今、消滅しつつある。

 衛星都市では、これから生活する人々の行動パターンが変わり、人同士の付き合い方が変わるだろう。街中を歩く多くの人たちが、平日でも夫婦単位、家族単位の行動が増え、これに対応したオフィス・商業機能、サービス施設の展開が求められる。また毎日同じ街ですごす、会社という組織を離れて、街に滞在して、同じ「我が街」に暮らす者同士でコミュニケーションをとるようになると、初めて衛星都市に対して愛着がわき、ロイヤルティが生まれるようになる。

 衛星都市という存在は、そこで暮らす人々のすべてが点であり、その点が鉄道を利用して衛星都市と母都市=東京を結ぶだけであった。未来の衛星都市は、そこに暮らす人々が毎日集い、働き、学び、遊ぶという面展開に変容してくるのだ。