全国の公示地価が発表された。昨年はコロナ禍の影響で三大都市部でも地価は大きく下がったが、今年は再び上昇カーブを描いた。

 今年の特徴は、オフィスビル需要に陰りが見え始めた東京の都心3区(千代田、中央、港)や、インバウンド需要がいまだ見込めない大阪市中心部の商業地で地価が引き続き下がっているのに対して、東京周辺の神奈川、千葉、埼玉などの住宅地や衛星都市の商業地で地価が反転したことだ。

合理的な意味を持たなくなった職場としての「ハコ」

 この背景には、人々のライフスタイルの変化がある。コロナ禍によって大企業を中心に広がったテレワークという勤務スタイルは、多くのワーカーや企業経営者に「働く」という概念を再考する機会を提供した。

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 朝起きて、支度して、満員電車に揺られて会社に向かい、「おはようございます」と挨拶してデスクに座る。デスクにはパソコンが鎮座していて、この道具を使ってメールをチェックしてやり取りする、資料を作る、会議に出席する。夕方から夜になると「おつかれさまでした」と挨拶を交わして再び長時間電車に揺られて帰宅する。たまに上司や同僚と酒を飲む。取引先の接待をする。このあたりまえと思っていた一日の時間割が、コロナ禍という未曽有のパンデミックによって、自宅を中心に自らで時間割を決めながら「働く」ことを余儀なくされた2年である。

 人は環境の変化に順応する生物だ。だからこそこれまでの長い時代において生きながらえてきたといえる。そしてこの2年間でこれまでの働き方を根本から変えていく動きが出てきている。上記の働き方が実は、オフィスというハコの中でなければ叶わなかったのは昭和・平成時代である。情報通信機能が発達して、パソコンなどの画面上で会話ができ、資料を交換でき、意思を確認し合えるようになれば、一部の業種、職種においてはオフィスというハコに膨大な時間を費やして通勤する、経営者の側からみてもこのハコ(空間)に毎月巨額の賃料を支払い続けることに合理的な意味を持たなくなっていることに気づいたのだ。