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 それでも2000年代前半までは出産を機に退職する女性が多かったという。「子どもができたら退社」という第1ステージから、「育児をしながら仕事を継続」の第2ステージへの移行を目指して、企業内保育所や短時間勤務制度など両立支援制度の拡充を進めてきた。

「支える側」も「支えられる側」も疲弊していく

 その結果、2014年には育児休業者が年間1300~1500人、時短勤務(育児時間)を取得しながら働く社員が2000人弱にまでなっていた。それに伴って深刻な問題になっていたのが、BCと呼ばれる社員たちの働き方だった。

 時短勤務者たちの勤務時間が平日昼間に集中したため、平日夕方以降や週末はフルタイムで働く社員たちがいつもシフトに入るというようなことが起きていた。夕方以降の人手不足をカバーするカンガルースタッフ制度も導入した。

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 これは当時、様々な職場で問題になっていたことだった。両立支援制度が充実すると、子育て社員たちは「辞めずに済む」ようになるが、短時間勤務社員たちが早く帰宅した後に、そのサポートをするのはフルタイムで働く社員だ。

 当時のAERAでも編集部員の3分の1を占めるワーキングマザー社員たちが、急な出張や夜の取材に行けない分を未婚女性や男性がカバーしていた。

 支え、支えられる関係は1回や2回では終わらない。常にその状態が続くと、支える側には不満が溜まってくる。一方の「支えられる側」も「いつも早く帰ってごめんなさい」という罪悪感を抱き、肩身の狭い思いをするという構造が固定化する。資生堂だけの問題ではなかった。

 同時に資生堂ショックの背景には、私がこれまで気づいていなかった点もあった。職場の不協和音、不公平感というだけでなく、短時間勤務者のキャリア形成という視点だった。化粧品売り場が混む夕方以降や週末を経験していなければ、多様な客に対しての接客スキルが磨かれず、経験の差が生まれるという側面もあった。