文春オンライン

「山口組幹部」はヘリコプターを使って送り迎え…今なら許されない「ヤクザのゴルフ事情」

『バブルの王様』 #2

2022/12/04
note

5代目就任のプレゼント

 静岡県浜松市を根城にしてきた芳菱会総長の瀧澤は、東京にもプライベート事務所を置いていた。事務所は赤坂にあるANAインターコンチネンタルホテル東京の裏にあり、本人は上京すると、内幸町にある帝国ホテルのスイートルームに宿泊した。

「森下会長、(若)頭が東京に来るので、悪いけどヘリを用意しといてんか」

 瀧澤は森下にそう伝え、森下はアイチの社員にゴルフ接待のアテンドを命じた。ラウンドするメンバーは山口組若頭だった渡辺と瀧澤、そこにたいてい組幹部ではない紳士が加わったという。

ADVERTISEMENT

 3人はボディガード兼運転手の組員たちとともに早朝6時に帝国ホテルを出て、ヘリポートのある木場に向かった。アテンド役のアイチの社員が、ヘリポートで山口組一行の乗ったベンツ3台を出迎え、いっしょにゴルフ場へ飛んだ。ヘリの飛行時間はせいぜい40分ほどしかないが、アイチの社員たちはさすがに緊張した。

「お風呂になさいますか」

 初めてのラウンド後、ゴルフ場の支配人がそう尋ねたこともあったという。気をきかせたつもりなのだろう。すると瀧澤が笑い飛ばした。

「ばか、俺たちは風呂に入らないんだよ」

ヤクザもゴルフ場で、刺青は見られたくない。写真はイメージです ©getty

 ゴルフ場はとうぜん貸し切りなのだが、やはり同伴の紳士に背中の刺青を見られることを気にしていたのだろう。山口組一行はゴルフを終えると、すぐにヘリで木場まで戻ってきた。そこで組員たちが出迎え、ホテルに帰った。山一抗争の終盤、そんな光景が何度か繰り返されたのだという。

 もっとも瀧澤が5代目山口組組長を目前にした渡辺のために探し求めていた肝心の加山又造の原画は、なかなか見つからなかったようだ。アイチの幹部社員が明かした。

「たしか日本洋画商協同組合主催のオークションの下見会が、麹町のダイヤモンドホテルで開かれるというので、そこに瀧澤総長をお連れした覚えがあります。ヤクザの名前ではオークションで絵を競り落とせません。なので、アイチで買って手数料をもらって渡そうとしたわけです。それで下見会のためにホテルの会場前で待ち合わせしていると、瀧澤総長が白いマスクに真っ黒いサングラスをかけてベンツから降りてきた。子分衆に『おまえらはここで待ってろ』と言い、車の中で待機させていました。だけど、本人がいかにも怪しい。だからサングラスとマスクを外し、帽子だけをかぶってもらって下見会場に入りました」

 結成65年の歴史ある日本洋画商協同組合は銀座にギャラリーを構え、洋画の出版・編纂の他、オークションも主催してきた。オークションには事前に会員の画商を招く下見会がある。暴力団組長は本番のオークションに参加できない。そのため、下見会で目当ての加山の絵画を探そうとしたわけだ。瀧澤を案内したアイチの幹部社員が、その光景を思い起こしてくれた。

「下見会にお連れしたとき、そのなかにたしかに加山又造の絵が20点近くありました。絵のサイズが小さすぎたり、大きすぎたり、雑な描き方だったり、いろいろありました。ほれぼれする加山作品もあった。だけど、シャム猫の原画はありませんでした。だから、結局あきらめたのではないでしょうか」

 瀧澤が渡辺に絵画をプレゼントできたかどうか、それは森下に聞いても、わからないと言った。

「山口組幹部」はヘリコプターを使って送り迎え…今なら許されない「ヤクザのゴルフ事情」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー