残留農薬など中国食品の問題はなぜなくならないのか。中国各地の農村に赴き、調査をしている高橋五郎・愛知大学現代中国学部教授は、農民たちの抱えている問題や制度の矛盾を指摘する。中国で禁止されている農薬が今も使われている理由や、日本のメーカーが行なう検査は信用できるのか、など我々が身を守るために注意すべき点を徹底解説する(出典:『中国食品を見破れ スーパー・外食メニュー徹底ガイド』、2013年8月発売)。
◆
残留農薬や重金属などの「日常的な汚染」は処罰対象に入っていない
6300カ所以上の「ヤミ工場・作業場」を撲滅。8200人以上を逮捕。4500件以上の事件を解決──。中国公安部が2013年6月に発表した「食品犯罪取締り食卓安全防衛特定プロジェクト」の捜査結果です。2013年1月に集中キャンペーンを始めてから6月までに、ニセ羊肉、病死肉、毒唐辛子、劣悪粉ミルク、猛毒農薬「神農丹」など、これだけの食品犯罪事件を摘発したというのです。
しかしこれは悪質な犯罪に限った取締りで、日常的な残留農薬や重金属など、意図的ではない汚染は処罰の対象に入っていないのです。「毒食品」騒ぎは、中国で頻繁に起きています。つい最近も、「毒ピータン(皮蛋)」が摘発されました。ピータンは、アヒルの卵を塩や生石灰などに2カ月以上漬けて作りますが、この期間を短くするために、工業用の硫酸銅に漬けていたというのです。当然、人体には有害です。
各地の屋台で、羊の串焼きと偽ってネズミやキツネの肉を売っていた件も摘発され、大きな話題となりました。米のカドミウム汚染では、健康被害が出ています。カドミウムといえば、日本では「イタイイタイ病」の原因として知られる重金属です。善良な消費者には同情します。
かつてのような「情報隠し」が通じなくなってきた
今では中国人自身が、食の安全に大きな関心を向けるようになりました。特に富裕層は敏感です。たとえば2008年にメラミン入り粉ミルクで5万人もの乳幼児が被害を受けたあと、富裕層の間では日本産の粉ミルクが大人気です。
人民日報や中国中央電視台も、環境問題や食の安全問題を詳しく報道するようになりました。かつてのような情報隠しが通じなくなってきたのは、いい傾向だと思います。
中国政府は1995年に「食品衛生法」を定めましたが、2009年に廃止し、より厳しい「食品安全法」を制定しました。それでも不十分だとして、指導部が交代した昨年以降、李克強総理を中心に見直しをしていますが、制度面、実施面で、まだ多くの問題が残っています。