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ガンダムに見る「平成」という激動の時代

『ガンダムと日本人』著者の分析

2018/01/27

京都議定書を意識か。自然に優しいガンダムへ

 ガンダムはあくまでエンタメ。たとえばOVAの『第08MS小隊』(平成8年~)の舞台は東南アジアの森林や湿地帯で、カンボジアに派遣された自衛隊PKO部隊を連想させるものの、現地住民との軋轢など深刻なドラマはほぼない(小説版にはあるが)。時代性をある程度は反映するが、そのままの形ではないわけだ。

自然に優しい最終兵器へ ©安藤幹久 /文藝春秋

 再び富野監督が戻ってきたテレビシリーズ『∀ガンダム』(平成11年~)は、19世紀のアメリカのような地方からスタート。まるで世界名作劇場のようなのどかな世界は、実は高度な文明が一度滅ぼされていたからだった。 

 戦いの発端は月に逃れていた人々の地球への帰還と、それに伴う現地との衝突。その生々しさは移民問題であり、ヨーロッパでの民族紛争のその後だ。

 かつて文明を滅ぼしたのは、∀ガンダムだった。愚かな地球人は殺さず、兵器や機械など人工物だけを砂に分解する……という自然に優しい最終兵器は、温室効果ガスの排出削減をめざした京都議定書(平成9年)への意識を感じさせる。

 ∀ガンダムが滅ぼした過去の文明は「なかったこと」にされ、「黒歴史」として封印された。今ではすっかり定着した「黒歴史」(なかったことにしたい過去)という言葉は、もとを辿れば「∀ガンダム」から生まれたものだったりする。

ガンダムでは「原発ゼロ」が実現していた

 遺伝子改造された超人であるコーディネイターや、スーパーロボットのようなアクションが印象に残る『機動戦士ガンダムSEED』(平成14年~)も、実はエネルギーをめぐる戦争ということで生々しい匂いがする作品だ。

原子力エネルギーはシリーズでも注視されていた。現実では平成23年の事故を忘れるわけにいかないが 写真=東京電力

 地球側(味方)が核攻撃をしたために、スペースコロニー側(敵)は核分裂を抑止する装置を敷設。その結果、なんと核攻撃ばかりか原子力発電も行えなくなった。「原発ゼロ」が、強制的に実現されてしまったSF世界! 

 そして最強のフリーダムガンダムは核エンジンを搭載。まさに東海村JCO臨界事故(平成11年)と福島第一原発事故(平成23年)に挟まれた時期ならではの「禁断の兵器」だ。昼ドラのようなドロドロの恋愛劇も凄まじい「SEED」だが、原発が封じられたためにエネルギー輸出が政治的カードになったりと、駆け引きも大国の外交さながらの奥深さがあった。

スマホ時代と世代間格差を予見しつつ任侠風も

 初代iPhoneがデビューした年に開始した『機動戦士ガンダム00』(平成19年~)は、国際紛争に軍事介入するガンダム達を描く。国境を超えて世界の人々の心に波紋を広げ、最終的にはコミュニケーションをテーマとした「00」は、まるでスティーブ・ジョブズのようでもあった。

ガンダム00はジョブズに応えたのかもしれない ©共同通信社

 同じ平成23年から展開された『機動戦士ガンダムUC』(アニメ版)は大人向け、『機動戦士ガンダムAGE』は子供向けに位置づけられたが、どちらも「ファースト世代の高齢化」というコインの裏と表だ。

 そして近年放送された『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、消耗品として使い捨てられていた少年少女達が大人に反旗を翻す、少子高齢社会での若者搾取を思わせるドラマ。火星で旗揚げした主人公達は、宇宙マフィアと義兄弟の盃をかわす……ということで「任侠ガンダム」の異名を取る。正義よりも実利を優先する仁義なき戦いは、右や左より経済政策で支持政党を決める今どきの若者にも通じる。

世代間格差という現代性と任侠ものまで味わえるガンダムの懐の深さ ©iStock.com

 ガンダムで始まり、ガンダムで終わる平成という時代。人が生きていくために変わるように、ガンダムもまた時代とともに進化していく。次の元号とともに現れる、新たなガンダムを待とうではないですか。

ガンダムと日本人

多根清史(著)

文春新書Kindle版
2018年1月26日 発売

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