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読売新聞主筆・渡辺恒雄「若い世代に戦争を伝えることの意義」

『独占告白 渡辺恒雄』 #2

2023/01/22
note

戦争体験を持つことの意味

「戦争体験を持つ政治家たちが、戦後政治を担ったことの意味は大きいです。戦後日本が、括弧付きかもしれませんが平和主義を歩んで、保守の自民党でさえ憲法改正を事実上は凍結してしまったこと、そういうことに全部表れていると思いますね。

 戦争体験を持っている人にとっては、色々なことが言えたわけですよ。戦争体験から皆が話をしたときには、生活も入れば、文化も入れば、そのときの『嫌だったな』という感情も入れば、物すごく議論そのものが豊かになるんですよ。

 ところが、今や戦争体験を持つ人がほとんどいない。戦争というものを抽象的にしか捉えられない、あるいは論理的なゲームの段階でしか捉えられない。そういう人たちがどんどん増えてくる。だから戦争を経験しない世代の中から、日本の戦争を肯定するような議論が、論理の問題としては出てくるんです。かつては戦争を語るときに、体験に基づいたある種の感情や具体的な場面というものが力を持ちましたが、今やそれがない。だから、戦争体験という共通の体験がなくなることが、政治の議論を狭くしていることは間違いない」

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「政治の議論というのは、基盤になるものが広くないと駄目なのです。だけどそれがどんどんなくなって、政治家にも官僚にもないということで、現在の行き詰まりのような現象が起きていると思いますね。だから、渡辺さんが常に戦争のことについて振り返るというのは、今や稀有だけど、大事な姿勢なのです。

 これからの日本は、ものを語っていく上で大変ですよ。戦争に代わるものとして何を、皆が知っている土俵の中で議論をやっていくのか、その共通のベースがない。だんだん歴史というものが、日本人の頭の中から希薄化してきている。それをもう一遍きちんと整理することが大事です」

1 渡辺恒雄「安倍首相に伝えたい『わが体験的靖国論』」『文藝春秋』2014年9月号、文藝春秋、261頁。
2 読売新聞戦争責任検証委員会『検証戦争責任 下』中央公論新社、2009年、301―302頁。
3 渡辺前掲「安倍首相に伝えたい『わが体験的靖国論』」256、260―264頁。
4 渡辺恒雄、保阪正康「『戦争責任』とは何か」『論座』2006年11月号、朝日新聞社、137頁。
5 総務省統計局「人口推計」(2021年10月1日現在)より。戦後生まれの人口は1億815万4000人となり、総人口に占める割合は86.2%である。
6 『国会議員要覧』国政情報センター、1989年8月版を元に筆者集計。
7 『国会議員要覧』2003年8月版を元に筆者集計。
8 『国会議員要覧』2022年8月版を元に筆者集計。
9 麻生太郎と尾辻秀久は1940年生まれだが、8月15日より後の生まれのため、5歳以上に含めず。

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