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安田 峰俊
2018/02/05

”強い”はずなのに魅力ゼロの中国とどう付き合うか

日本が中国を「安心して見下せた時代」は終わった

 これまで5年間勤務してきた多摩大学の非常勤講師の職を離れることになり、先日最後の講義を終えた(なお、勤務を離れた理由は不祥事とかではない。念のため)。

 私はむかし塾講師のバイトをやっていたせいか、講義では小難しい理論を喋るよりも、本来退屈な内容をおもしろく喋ってヤル気のない子をヤル気にさせるほうが得意であり、多摩大では1年生向けの中国語(必修の語学)の担当がいちばん楽しかった。いっぽう、頭を抱えたのが「普通の講義」である。

 私たち中国ライターは、日常的に「中国とどう付き合うべきか」といった質問を受けることが多い。なので、講義でもひとまず日中関係史のような内容を喋っていたが、果たして大学教育の水準に見合う話だったのかは現在も悩ましいところだ。

 ただ、中国は変化のスピードが速い。5年前の2012年度と現在の2017年度を比べると、似たような講義をしていても学生側に顕著な肌感覚の違いを感じたことは興味深かった。特徴的な部分を挙げると以下のような点だ。

(1)中国の「反日」の話題への関心が薄れた

 過去、中国で大規模な反日デモが起きたのは小泉政権下の2005年、菅政権下の2010年、野田政権下の2012年の3回だ。学生が仮に受講時点で19歳(2年生)とすれば、2012年度の学生は12歳・17歳・19歳と成長段階ごとに中国の反日デモのニュースに触れてきたいっぽう、2017年度の学生は最後の反日デモの記憶が14歳のときになる。関心の度合いが違うのも納得だろう。

(2)「中国人は金持ち」という認識がうっすら共有されるようになった

 2012年は中国のGDPが日本を追い抜いて2年しか経っておらず、また円安誘導やインバウンド誘致も本格化していなかった時期なので、日本の一般人の生活から中国の豊かさを感じることは現在よりもずっと少なかった。

 だが、それから5年を経て学生がバイト先などで中国人の観光客やその消費行動を目の当たりにするようになったせいか、現在は「中国人は金持ち」という認識がうっすら共有されるようになった印象がある(もちろん、中国国内には現在でも「金持ち」とは程遠い生活水準の人が山ほどいるのだが)。

(3)中国製品はいまでも信用されていないが、ハイテク分野は評価が上がった

 2017年現在でも、学生に言わせれば中国の製品やサービスは「質が悪い」「パクリ」という認識が強い。ただ、ファーウェイのスマホやレノボのPCがすっかり市民権を得たためか、ハイテク分野に対する評価はこの5年間で明確に上がった。

(4)中国人留学生が文革や天安門事件など中国の負の歴史に関心を示さなくなった

 講義には一定数の中国人留学生が交じっている。2012年度時点では「文革」「天安門」は怖いもの見たさ半分の興味を刺激されるテーマだったらしく、身を乗り出して話を聞こうとする留学生もいたが、2017年度になると無関心な学生が増えた。また、2017年には習近平を手放しで賛美するようなレポートを書いてくる留学生まで出るようになった。

 私が接した範囲内では、中国のその他の社会問題を指摘する話題も最近の中国人留学生にはあまり好まれないようだ。彼らに喜ばれがちなのは、中国の国際的影響力の増大やニューエコノミーの発展といった「中国スゴイ」系の話題である。1990年代末に生まれた彼らが非常に無邪気に自国の社会や政治体制を肯定している姿は、一世代以上前の中国人と比べると信じられないと言うしかない。

上海上空からの夜景 ©iStock.com

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 私が多摩大にいた5年間はほぼ、習近平政権の第1期目と重複している。年度ごとの学生の違いもあるので過度な一般化は禁物だが、習政権の成立以降の中国の変化は、やはり日本の小さな私立大学の教室にすらも及んでいたと思わざるを得ない。