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1万個のゴリラのうんちから見えてきた“動物と自然と食の深いつながり”

堤未果×山極寿一対談#1

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 歴史, ライフスタイル

note

ところが今、その共存関係が無視されているという。元凶は…

山極 食べるという行為は、もともとは人間もまた生きるために細菌類や植物や動物たちと共進化を遂げてきた結果そのものです。ところが今や、ゲノム編集やデジタル変革によって新たな食物が次々と出てきて、食べるという行為にあった本来的な共存関係がまったく無視されてしまっている。それは自然との関係を断ち切ることに他ならないと僕は思っています。

 その危機感、全く同感です。今回の本では、急激に進んでいる人工肉やゲノム編集技術を使ったフードテックについて世界の事例を取り上げましたが、今あるいろいろな問題はテクノロジーの力で解決しよう、という発想が見えてきます。

 牛は“地球温暖化の元凶”だからとにかく減らして人工肉に置き換えていこう、増え続ける人口を養うために、ゲノム編集で遺伝子を破壊し、短期間で効率よく身を増量させた魚を養殖しよう、とかですね。確かに便利だけれど、根底にあるのは、言ってみれば、私達人間の都合による「生産性至上主義」に他なりません。

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山極 本書でも指摘されていますが、20世紀の始めに「緑の革命」という大生産革命がありました。空気中の窒素をアンモニアにして、それを肥料として土壌に撒くことによって、生産量が10倍になるという革命で、確かにものすごく農作物の収量は上がりました。

 しかし結果として、土壌が死んでしまった。多量のアンモニアが、アンモニア化合物となって流れ出し、窒素過剰状態になるわけですね。そしてもう1つの問題は、農業が大規模に工業化されてしまったことにより、生産と消費はグローバル企業に専有化され、価格も支配されるようになった。小規模農家は作っても作ってもお金は得られず貧乏になるだけという構造が南北格差を拡大させた。

 僕は長年アフリカでゴリラの調査をしながら、地元の人たちと付き合ってきましたが、ヤシ、紅茶、コーヒー、とうもろこし等のプランテーションが増えるなか、森をよく知る狩猟採取民の人たちは保護区から追い出され、雇われ農民たちはジリ貧で、自分たちの食べ物を作る土地がなくなってしまっている現実があります。

 食べ物を作る人が貧しすぎて食べ物を買えない、おかしな話ですよね。そんな「緑の革命」は、今再び息を吹き返しています。アフリカの食糧危機を救済するという「AGRA(アフリカ緑の革命同盟)」というプロジェクトですが、前のとの違いは、化学肥料と農薬、遺伝子組み換えのタネに加えて、デジタルテクノロジーが導入されている事だというんです。