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「お母さん、WBCのマウンドに立つ昇太を見て、涙が出てきました」今永昇太投手への手紙

文春野球コラム 文春WBC2023

2023/03/13
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「あの夏の日の少年」、それが昇太なのだ

 2023年3月10日、WBC第2戦。お母さん仕事の合間、チラチラとスマホのアマプラに目を走らせては浅い呼吸を繰り返していました。先発のダルビッシュ投手が先制され、しかし野手陣の猛攻で逆転し、思っていたそれ以上に緊迫する局面で昇太の出番がやってきたのでした。

 いつものオールドスタイルでマウンドに立つ昇太。あれ、こんなに昇太の身体はガッチリしていたかしら。肩幅、胸板、お尻、一回り大きくなった昇太がそこにいました。これは去年の年末に出演した『筋肉体操』(NHK)の効果なのでしょうか。ガッチリ昇太から放たれるストレートは、鋭く重たく、吸い込まれるように中村悠平選手のミットにおさまり、球速は150を優に超えていて、これまたびっくり。そしてあっさり三者凡退に抑えても、どこか物足りないような、満足してないようなへの字口。これはいつもの昇太でした。キャッチャーのサインに2回首を振り、投げたボールがスコーンとライトスタンドに消えていく。ラブストーリーくらい突然のソロホームランも、いつもの昇太でした。準備はできたかレイディ、今永昇太イム!!とお母さん心の中でタオルぶん回してました。

 昇太、お母さんいつも思うんです。誰もが記憶の中に持っている「あの夏の日の少年」、それが昇太なのだと。こんがり日焼けして、への字口で、強い意志をたたえた目をして。照りつける太陽の下で人生の昼間を謳歌する、眩しい夏の日の少年です。だからお母さん、勝手にお母さんなどとのたまってしまう。ごめんなさいね。WBCのマウンドに立つ昇太を見て、なんだか涙が出てきたのは、あの夏の日の少年が、たくさんの季節を通り過ぎて、辛いことも楽しいことも悲しみも喜びも経験して、より広くより厳しい世界に立ち向かっていたから。鳥のように羽ばたいていく昇太が誇らしく、人生の夕刻に向かうばかりの自分が少し寂しく、折り合いのつけられない気持ちは頬を伝ってやがて消えていきました。あらあらお母さん、おセンチがすぎました。

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昇太は今「すごい事」をしているんだとお母さん思います

「日本には大体1億2000万人いて、そのなかで野球に興味がある人がどれくらいいるんでしょうか。日本の人口の数%の方には興味深いことかもしれませんが、野球に興味がなかったり、知らない人だってたくさんいらっしゃる。そういう方たちからしたら、ノーヒットノーランって何?ってなると思うし、たとえニュースで見ても、ふーん、で終わると思うんですよ。(中略)そう考えたら、僕はすごい事をしたって気にはなれないんですよね」

 これは昨年ノーヒットノーランという大記録を達成した昇太が、ヴォル会の盟友・寺田光輝さんに語った言葉です。昇太、なんとWBC中継の世帯視聴率は40%を超えたそうです。野球に興味がなかった人もこの世界的なお祭りを楽しんでいるということでしょう。大谷選手やダルビッシュ投手目当てで試合を観た人が、きっと昇太を見つけている。記憶の中にある、あの夏の日の少年を。

 昇太、あなたはずっと満たされることはなくても、昇太は今「すごい事」をしているんだとお母さん思います。昇太に憧れてピッチャーを目指す子どもたちが、昇太と同じオールドスタイルに勇気づけられながら、小さな野球場で懸命に腕を振る姿を勝手に想像して、お母さんまた泣いてしまいました。

編集部注:ライターの西澤千央さんは今永投手のお母さんではありません。

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