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「昇太、元気にしてますか。お母さん、最近思うんです」――ベイスターズ・今永昇太選手への手紙

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/03/29

 昇太へ。

 昇太、元気にしてますか。ちゃんとごはんは食べてますか。キレイ好きな昇太だから、毎日毎日床をコロコロしてるのでしょうね。寮にいた頃は、部屋をいつも掃除してるのに、高城くんが遊びに来るとお菓子の袋とか空き缶とかを散らかしていくって、お母さん、横浜ウォーカーで読みました。でも「それ苦痛じゃないし、むしろそれを片付けてる自分が好き」って書いてあって、ちょっと泣いてしまいました。

キレイ好きな今永昇太 ©文藝春秋

お母さんは正直不憫でならなかった

 同期の熊原くんがトレードで楽天に移籍しましたね。お母さん、昇太が動揺してるんじゃないかって、少し心配です。昇太がドラフト1位で、熊原くんが2位。昔からお笑い好きで、人を笑わせるのも好きだった昇太に「ほんまもんには勝てない」とそのキャラを捨てさせたのが、熊原くんでした。キャンプでは同じ部屋で、なぜかベッドをくっつけて寝てると知って、お母さん、うれしかった。そこまで心を許しあえる友達ができたんだなって。なぜでしょう、少しドキドキもしました。

 お母さんね、昇太がベイスターズに入団したのはもう4年前のことなのに、どうも昇太を見ると「ルーキーだ」って思ってしまうんです。いつも真っ黒に日焼けして、髪は短くて、どこかあどけない表情だからでしょうか。だけどお母さん、熊原くんのトレードの報せを聞いて、よくわかった。昇太はもうルーキーじゃないんだって。選手としての区切りを迎える時期なんだなって。

 今だから言いますね。「投げる哲学者」なんて呼ばれていた昇太が、お母さんは正直不憫でならなかったんです。プロに入ってすぐの頃は、どんなに好投しても、味方の打線は沈黙するばかりでした。悔しかったことでしょう、「いやいや7回1失点で負けつくんかーい」とやるせなかったことでしょう。それなのに昇太は、愚痴もこぼさず「負けた投手は何も残らない」とただ一言。それからでした。野球の神様が昇太に大喜利をさせるようになったのは。「援護がないという言い訳は防御率0点台の投手だけが言える」「三振を取れる投手ではなく、勝てる投手がいい投手」……勝ちに恵まれない昇太が、喘ぐように絞り出したこれらの言葉は、愚痴より文句よりはるかにじわじわとファンの五臓六腑に染み渡りました。

 昔ソクラテスという哲学者が言ったそうです。「悪妻を持てば人は哲学者になる」と。ベイスターズは昔からファンとルーキーを哲学者にするんです。お母さんも長年ベイスターズファンをやっていますが、確かにこの圧倒的に理解不能、予測不能、制御不能なベイスターズという現実を生きるためには「哲学」を見つけるしかなかった。昇太もきっとそうだったんでしょうね。ただ、ただね、雨で試合中止の日に「雨の日に勝たないと雨男じゃないです。雨の日に負けるとシンプルに力のないピッチャー」と言った時は、さすがのお母さんも「これは……ふざけてるな」と思いました。そこは反省してください。