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「母が私の首を絞めたり、包丁を突き付けたりするのです」それでも54歳ケアマネジャー女性が「毒親の母」を見捨てなかったワケ

「母が私の首を絞めたり、包丁を突き付けたりするのです」それでも54歳ケアマネジャー女性が「毒親の母」を見捨てなかったワケ

『毒親介護』 #2

2023/05/04

source : 文春新書

genre : ライフ, ライフスタイル, 社会

note

「母とはいろいろあったけど、可能ならいい関係になりたい」

「84歳という母の年齢、そして認知症であることを考えると、一緒に過ごせるのもあと数年かなと思います。母はいずれ施設のお世話になるかもしれないし、あっけなく亡くなることだってあるでしょう。それまでの間に、私はこれだけのことをした、やれることはやったという納得がほしい。自分で自分に、よくがんばったね、そう言いたい気持ちがあるんでしょうね」

 同居を選んだもうひとつの理由は希望、「母とはいろいろあったけど、可能ならいい関係になりたい」と話す。

 実際に希望を見出せるのか、今の山田さんには確たる自信はない。母の言動についひどい言葉を返したり、些細なことで苛立ったり、過去の苦しみが沸き起こることがあるからだ。思わず母を責めてしまう自分に後悔と罪悪感を覚えながら、一方でその感情があるからこそ次につながるようにも思える。

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 今日の自分の反省が明日の母への優しさになり、今の失敗が次はこうしようという気持ちを呼ぶ。そんなふうに一日一日を積み重ねながら、いつか母と心の底からわかりあいたい、それが山田さんの抱く希望だ。

「今、私は54歳です。この年になって過去を振り返ったとき、子どものころの私にひどいことをした両親は今の私よりずっと若かった、おそらく未熟だったなぁと思うのです。特に母は、父の女性問題や借金、生活苦にうつ病、いろんな苦しみを抱えていた。もしも私が母と同じ年齢で同じ苦しみを抱えたら、自分のことに精一杯で毒親にならざるを得なかったかもしれません」

 子どもの視点から母を見るのではなく、母の人生を自分に置き換えるとまた違った思いになる。山田さんの言葉からは、かすかな、けれども大切な希望も感じられてならない。

毒親介護 (文春新書)

毒親介護 (文春新書)

結貴, 石川

文藝春秋

2019年11月20日 発売

「母が私の首を絞めたり、包丁を突き付けたりするのです」それでも54歳ケアマネジャー女性が「毒親の母」を見捨てなかったワケ

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