文春オンライン
「お母さん、早く逃げて!」西日本豪雨で被災した71歳女性を救った娘からの“緊急電話”

「お母さん、早く逃げて!」西日本豪雨で被災した71歳女性を救った娘からの“緊急電話”

西日本豪雨から5年、衝撃の浸水想定10m超#1

2023/07/11

genre : ライフ, 社会

note

 作成の中心になった倉敷市役所の防災危機管理室、中島活也・課長主幹だ。「誰にでも見やすくなるよう、盲学校の教員に相談して浸水レベルごとの色分けを強調しました。また、市役所が発表する避難情報にはどのようなものがあるか。その時にどのような行動を取ればいいか。さらに指定緊急避難場所ではどのような状態になるか。真備町で実際に起きたことなどを参考にしながら、ハザードマップで防災学習ができるように工夫しました」と説明する。

倉敷市役所

 ただ、前述したように真備町では多くの地区で浸水深が西日本豪雨の2倍以上となる。「10m以上」というと3階建てでも屋根が水没してしまう。衝撃の内容だった。

圧倒的に足りない避難所

 L1想定では10カ所の公共施設と、2~3階以上が使える5施設の計15カ所を指定緊急避難場所にしていた。それが、L2想定では5カ所の公共施設と、3階以上が使える小学校が1カ所の計6カ所しかなくなる。

ADVERTISEMENT

 しかも、このうちの2カ所(清掃工場の吉備路クリーンセンターと、真備総合公園の体育館)は山の中ほどにあり、西日本豪雨までは指定避難所ではなかった。逃げ場を失った住民が押し寄せて、渋滞が発生するほどになり、市が実態を後追いして被災後に指定した施設だ。

 真備町の人口は約2万人。L2レベルの水害でも全員が被災するわけではないが、市街地は全て最大10mを越える浸水深になる。避難所は圧倒的に足りない。

 今回、L2想定のハザードマップは、高梁川や小田川以外の市内の主要河川でも完成した。従来は浸水しないとされていた地区が広範囲に浸かり、5~10mの深さで浸水する地区も増えた。真備町以外でも驚く人が多いはずだ。市は「いったい、どこへ逃げればいいんだ」というような問い合わせが多数寄せられるかもしれないと考えた。そこで「早めに避難してくださいという意味で作成しました」などという想定問答集を準備したうえで、5月号の市広報と一緒に全戸配布した。

箭田まちづくり推進協議会では年に2度防災訓練をする。梅雨入り前に行った訓練の結果は、ワークショップ方式で反省会を行い、結果を刷り物にして配った

新しいハザードマップを見たか聞いてみると…

 だが、配布から2カ月が経っても、ほとんど問い合わせがない。どういうことなのか。

 実は、大本進・防災危機管理室参事は懸念を抱いていた。地域の集まりなどに招かれて、防災関連の話をすることがある。そうした時に「ハザードマップを持っていますか」と尋ねると、「なくした」という人がかなりの割合を占めるのが常だ。防災に関心がある人の集まりでさえ、そうなのである。

 問い合わせがないという「事実」から類推すると、新しいハザードマップも見られていないのかもしれなかった。

関連記事