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「日本の“読書バリアフリー環境”の遅れは目につきました」市川沙央氏が芥川賞受賞作で伝えたかった自身の“問題意識”

新芥川賞作家 市川沙央氏インタビュー

2023/07/21
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 7月19日、『ハンチバック』で芥川賞に輝いた市川沙央さん。自身と同じ重い障害がある女性を主人公に描いた作品で選考委員から圧倒的な支持を集めた彼女に、受賞の喜びを尋ねた。

©松本輝一/文藝春秋

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 これほどワクワクしながら読み進められる純文学作品は、なかなか現れない。市川沙央『ハンチバック』。あらすじはこうだ。

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 グループホームで暮らす重度障害者の主人公・釈華は、ライター仕事やSNS、小説サイト投稿と、自室からさまざまなかたちで言葉を発信している。釈華はあるとき、胸中に膨らんだ願望を実現しようと、ヘルパーのひとりに声をかけ行動を試みるのだが……。

 言葉の豊かさと文章の巧みさ、登場人物の際立った個性、「知らない世界に触れている!」という実感が続くストーリー展開。加えて現代社会の抱える重いテーマが全編を貫いて、充実した読書体験を味わえる。

 同作でこのたび芥川賞を受賞した市川沙央さんの言葉を聞こう。

©文藝春秋

大きい感情が湧かないようになってしまっていて……

 直後の受賞会見に臨んだ市川さんは、オレンジ色の衣装の鮮やかさに記者が言及すると、

「(同作単行本の)表紙の色と似ていて、まるで誂えたように見えますよね」

 と返す。報を受けての率直な感想についても、

「半年ほど前、(同作を応募した)文學界新人賞の最終選考に残ったころから、大きい感情が湧かないようになってしまっていて、今回も『わあ!』とはならなくて。今なら凄腕のスパイになれるなと思いましたね。ただ、これからが大変だなと。私はエッセイを書くのが苦手なので」

 受賞すると多数の原稿依頼でてんてこ舞いになるのを、ユーモア混じりに心配してみせた。

 真っ先に受賞の喜びを伝えた相手は? との問いには、

「7つ上の姉にLINEして報告しました。姉は私と同じ病気で小説好き。又吉直樹さんのファンなんです」