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「4番ファースト藪」の衝撃…日本一を知らない世代だから語れる阪神“暗黒時代の記憶

文春野球コラム ペナントレース2023

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Aクラス常連になって気付いた、小学生の僕と父親の違い

 そして02年、タイガースに星野仙一監督がやって来た。こちらも中日ドラゴンズでリーグ制覇を経験している監督だが、野村監督とは対照的な「闘将」と呼ばれる燃える男である。

 その燃える男と野村監督が我慢して育てた選手達が上手く噛み合い(野村監督に完全に干されてた今岡選手は除く)、就任して2年目にはFAで金本知憲選手、大リーグから伊良部秀輝投手を獲得。これで全てのピースがハマり、首位を独走。遂に18年振りのリーグ制覇を成し遂げてしまった。

 そこからは04年に岡田彰布監督が就任。05年にまた2年振りのリーグ制覇を達成する事になる。

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 その頃の僕はと言うと、もちろん嬉しかった。嬉しかった…………はずなんだが、なんだかそこまで舞い上がったり、アホみたいに浮かれて喜んだ記憶が無いのだ。おかしい。何故なんだろう。きっと、負け癖が付き過ぎて勝つ事に戸惑っていたのだと思う。

 周りの巨人ファンの友達に対しては鼻が高かったし、それまで散々コケにされて来たので、気持ちが良かったはずなのだが、なぜか威張れなかった。弱いチームのファンの気持ちは痛い程分かるので、逆に気を遣ってしまう程だった。

 そこから阪神タイガースはAクラス常連のチームとなる。そして、05年以降の僕の応援スタンスも少し変わった気がする。

 以前より、強いタイガースを求めるようになっていた。

 あぁ、これか。

 これが小学生の僕と父親の違いだったのかもしれない。

 1985年に日本一を味わった父親は、強いタイガースを知ってるからこそ、消化試合は観なかった。大差でリードされていたらチャンネルを変えていた。弱い阪神を観るのが悔しかったんだと思う。暗黒時代は毎日辛くて仕方が無かったに違いない。

 その点、僕は暗黒時代しか知らなかった。弱いのが当たり前。勝ったら最高、負けるのが普通。大袈裟にいうとノーリスクハイリターン。優勝出来ないと嫌だという悔しさやプレッシャーも無かった。なんて気軽な応援スタンスだったのだろうか。

今年こそは優……ではなく、アレをしてほしい

 だがそんな僕も03年、05年にリーグ優勝を味わってしまった。あの頃とは違い、負けたら悔しい。勝たないとその日は落ち込む。あぁ、そうか。今までは好きで観てるだけで、正確には応援という行為では無かったのかもしれない。

 今はちゃんと、強いタイガースを求めてる。

 負けた日はあんなにイライラしていた父親の気持ちも分かってきた。

 やっと本当の阪神ファンになれた気がした。

 ただ父親と違うのは、僕は今でも消化試合を観るし、負けてても試合が終わるまではチャンネルを変えない。これは僕が暗黒時代から入ったファンだからこそ「どれだけ弱くても阪神タイガースが好き」という核が根付いているからだろう。

 そこは“暗黒時代”に感謝しないといけない。

 タイガースは弱くても楽しませてくれる。今では笑いながら「4番ファースト藪事件」を話す事ができる。

 今の阪神ファンは目の前の試合に一喜一憂し過ぎる節がある。エラーしたり三振したり打たれたり、負けたりした時にはSNSが荒れたりする。最悪の場合、選手に直接DMを送る人もいる。

 腹が立つのは分かるが、今のタイガースは何を隠そう首位独走中なのだ。切り替えて次の試合に勝てば着実にアレに近付いていけるのだ。今あなたが応援出来ている阪神タイガースは暗黒時代では無い。その幸せを少し噛み締めてみてほしい。

 そして、今年こそは優……ではなく、アレをしてほしい。03年と05年に戸惑ってしまった分、次こそは喜びを爆発させたい。道頓堀に飛び込む事はしないが、それに匹敵するくらい阪神ファンのみんなと勝利を分かち合いたい。

 そして今年は「4番ファースト大山」をアテに、濃いめのハイボールでも飲ませてもらいたい。父親と一緒に。

◆ ◆ ◆

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