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いざ「1日平均利用客数0人の駅」へ…中国山地を走る「芸備線」日本一の閑散線区に行ってみた

2023/09/16

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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 今年2月にJR西日本が公表した芸備線の利用状況に関する資料によれば、令和元(2019)年度の道後山駅の1日平均利用客数は0人となっている。0人……。

1日3往復の時刻表(道後山)
左はかつての出札窓口跡。それより低い右側の台は「チッキ」と呼ばれた鉄道小荷物の受け渡し窓口だったと思われる

「谷底で急に前方の視界が開けると、そこが終点の備後落合であった」

 線内最高地点駅である道後山を出ると、今度は下り坂が続く。谷が狭まり、並行する道路は見当たらず、頭上の青い空しか遠方が見えないような深い木立の間を走る。木立の中と本物のトンネルをくぐり抜けていくうちに、手元のスマホが途中で圏外になっているのに気づいた。

道後山から備後落合へと続く線路

 何度目かのトンネルを出て左へ大きくカーブする曲線の途上で左前方の視界が開け、高い橋梁を悠然と横断する。高さ30メートル、全長146.2メートルの第1小鳥原(ひととばら)川橋梁で、中国地方にある鉄橋としては最も高い。

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 その後もなお、山奥へ迷い込んだかのように左右へ蛇行を繰り返しながら下り道を進むうち、車窓に見え隠れする川の流れも心なしか緩やかに見えてくる。

第1小鳥原川橋梁を渡るディーゼルカー

 やがて、左右の山の斜面がさして離れない谷底で急に前方の視界が開けると、そこが終点の備後落合であった。運転士に切符や整理券を見せるか現金で運賃を払って順番に下車していくが、ここまでの片道切符を示して途中下車を申し出たのは私くらいで、運賃を現金払いする人は1人もおらず、ほとんどの下車客は青春18きっぷを提示していた。手元のスマホは、いつのまにか再び通信圏内に戻っていた。