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「守りに入る人生でお前はええんか?」73歳になった東尾修さんに学ぶ、“老い”との付き合い方

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

2023/10/19
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 プロ野球はレギュラーシーズンが終わり、クライマックスシリーズ(CS)真っ只中。CSの中継がない文化放送は、日本シリーズの最大7試合を残すのみとなった。なんとなく寂しい気持ちになるのだが、我々よりも寂しそうなのが解説者だ。

 文化放送の解説者陣も高齢化が進み、レギュラー解説者6人の平均年齢は68.5歳。狭い放送席での会話も、腰が痛い、膝が痛い、友人が亡くなった……と、年を取ることへの不安や寂しさを感じさせる。放送が始まればそんなことは微塵も感じさせないのだからプロだなと思う一方で、この放送がなければ張り合いがなくなってしまうのではと想像してしまうのもたしかだ。

 去る5月、解説の東尾修さんに73歳の誕生日プレゼントとして靴下をお渡しした。「コロナ禍で外に出ることも減って、食欲がわかない」と話していたのが心に引っ掛かっていたのだ。『この靴下を履いて元気に遊びまわってくださいね』とメッセージも添えた。

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 それがどういうわけか「じゃあお前が付き合え」ということになり、それ以降たびたび御供するように。元気なのかそうじゃないのかよくわからないなと思いつつ、東尾さんから老いとの付き合い方を学んでいる。

老いていくのは「仕方ない」

 人間だれしも老いに抗うことはできない。仕事から離れ家にいる時間が増えれば、社会との関わりはなくなっていく。日常生活の煩わしさに気をもむ時間が増える。老いと孤独はイコールではないものの、切り離すこともできない。

 かつて華やかな世界で活躍した人も例外ではない。プロ野球の世界で251勝を挙げ、監督を経験した東尾さんでも、今、朝昼兼用のご飯はコンビニで調達することが多い。夜はなじみの店に顔を出すが、そこでも「食欲はそんなにない」ので飲むばかり。我々が想像する東尾さんのイメージとはまったく違うと言っていい。

「忘れる……というか、思い出せないことよね。人の顔を見ても名前が出てこないし、『あれ』とか『それ』になってしまう。体は動いても、脳みそがついてこない。(そういう自分に)寂しくなるよ」

 老いることは覚えられなくなることではない。覚えたものを取り出せなくなることだと言う。かつてできたことが、緩やかにできなくなっていく。不安はないのか。

「不安もなにも、仕方ないから。止める薬もないし、どうにもできないやんか」

 東尾さんがよく口にする言葉に、この「仕方ない」がある。面倒なことも「やらなきゃ仕方ない」。知らないことも「やってみなきゃ仕方ない」。相手が「そういう人だから仕方ない」。

 変えられないものにどう向き合い、変わってしまうものとどう付き合うか。思い通りにならないことを「いやだ」と拒絶するのではなく、「仕方ない」と置いておく。「仕方ない」で感情と事実を切り離す。そこから、さてどうしようか、となるわけだ。

 恵まれた体格でもなく、球速もない。それでもメシを食わなければ仕方ない。さて、どうしようか。プロで251勝を積み重ねたプロセスにも通じる心構えがここにある。

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