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オスロ合意から30年…イスラエルとパレスチナ「二国家共存」のゆくえは?「和平交渉を引き延ばして…」

『戦争と人類』より #2

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 約1万年前のアフリカで起きた「人類最初の戦争」から核兵器の発明と使用、ドローンなどの最新技術が投入されたロシア・ウクライナ戦争まで――。文明の進歩に伴い急速な変化を続けてきた戦争の歴史を一冊に凝縮した『戦争と人類』(著:グウィン・ダイヤー、翻訳:月沢李歌子/ハヤカワ新書)。

 ここでは、本書より「イスラエル・パレスチナ問題」について一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

『戦争と人類』(著:グウィン・ダイヤー、翻訳:月沢李歌子/ハヤカワ新書)

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アラファトによって結成されたPLO

 パレスチナ解放機構(PLO)は、ヤーセル・アラファトによって1964年に結成された。これは、多くのパレスチナ人が住む難民キャンプで編成された武装集団の戦略を統合するためのものだった。

 アラファトは、これらの集団が直接攻撃によってイスラエルを倒し、故国を取り戻す可能性はまったくないとしても、異なる目的のために彼らの実行力を活用すれば、なんらかの結果を生み出せると見抜いた。

 アラファトと仲間たちは、「難民」を「パレスチナ人」という新しい属性で呼ぶことの重要性を理解していた。彼らが非アラブ人から(あるいは一部のアラブ人からさえも)、ただ「アラブ難民」とひとくくりにされてしまう限り、理論上は、アラブ世界のどこにでも再定住できるとみなされてしまう。

「パレスチナ人」というアイデンティティを認めさせること

 彼らが故国へ帰るための唯一の望みは、「パレスチナ人」というアイデンティティを世界に認めさせることだった。パレスチナ人と呼ぶことによって、暗黙のうちにパレスチナの土地が彼らのものであるという主張の正当性が世界に受け入れられる。

 パレスチナ人が本当に存在すると世界に納得させるには、どのような活動をすればいいだろうか。もちろん通常の広告活動ではなく、衝撃的な暴力行為を実行することだ。そうすれば、メディアは必ず報道する。また、その事件を説明するために、パレスチナ人のことを話さざるを得なくなる。

(本書より)

 1970年9月、PLOの「ゲリラ」は、4機の大型定期旅客機を同時にハイジャックして、ヨルダンの砂漠地帯にある空港まで飛行させ、乗客を降ろしたあと、世界中のテレビカメラの前で爆破した。

 それに続く攻撃では多くの死者を出したが、これは合理的で達成可能な目的を持った国際テロだった。目的はイスラエルを屈服させるためではなく、自分たち自身の運命に関する議論に積極的に参加すべきパレスチナの民が存在することを世界に知らしめることだ。