「現代のパレスチナ問題の本質は、宗教対立などではなく、地域覇権をめぐる政治的対立と見た方がより正確なのです」
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム系組織「ハマス」が、イスラエルに対し攻撃を開始してから1カ月。イスラエル軍も空爆して反撃。双方で数千人単位の犠牲者を生み、死者数は近年では最悪の水準となっている。
「イランが脅威」という“本音”が出た
「イスラム教徒の住むパレスチナ」と「欧米側が支援するユダヤ教国家・イスラエル」との対立と見なされるこの紛争。しかし、実態は異なるとキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は指摘する。
「誤解を恐れず言えば、サウジやアラブ諸国にとって、パレスチナ問題は、もはや『絶対に解決しないといけない大義』ではありません。今のアラブ諸国にとってイスラエルは主たる敵ではなく、最も大きな脅威は、かつての大帝国であり、今は宗教過激派に統治されているイランなのです」
ハマスによる攻撃の目的は、「イスラエル=サウジアラビアの接近」を防ぐことだった、と宮家氏は言う。
「これまでサウジアラビアなどアラブ諸国は、アラブの大義という“建前”から、イスラエルとの関係は深めないという態度をとってきました。しかし、近年ではイスラエルより、むしろイランが脅威をという“本音”をベースに自国の安全保障を考え直しているのです」
“泥沼”に引きずり込み、米の影響力を低下させたい
実際、ハマスの狙いどおり、今回のガザ紛争によって、サウジアラビアなどアラブ諸国とイスラエルの関係は、ふたたび冷え込んだものとなりつつある。