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ドローンや最新ミサイルが注目されがちなウクライナ戦争で“昔ながらの大砲”の評価が急上昇した理由「この戦争はクソみたいな1916年型の西部戦線だ」

2023/11/05
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 ロシアによるウクライナ侵攻(以後、ウクライナ戦争と表記)が始まって1年半以上が経過した。その間、戦局も目まぐるしく変化したが、報道で「ゲームチェンジャー」などと取り上げられる兵器も大きく変わっている。

 まず、侵攻当初は欧米から供与された対戦車ミサイル、ジャベリンや地対空ミサイル、スティンガーといった、歩兵が携帯できるサイズの兵器への注目度が高まった。次にトルコ製ドローンのバイラクタルTB2が注目を浴びた。その後も高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)、ドイツ製戦車レオパルト2、イギリスの巡航ミサイルストーム・シャドウ、最近では長射程の地対地ミサイルATACMS(エイタックムス)が注目を集めている。

攻撃に使われたドローンの残骸を調べる警察官 ©時事通信社

 しかし、供与される度に注目を集めるこれらの最新兵器(レオパルト2は登場から半世紀近く経っているが)に対して、近代以前から存在する大砲(火砲)は、その旧態依然としたイメージからか、報道ではあまり取り上げられていない。アメリカの榴弾砲M777が供与される際に少々注目を集めたくらいだろう。

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 冷戦の終結に伴い、重厚長大な冷戦型の軍隊から、軽量で迅速に展開するスマートな軍隊への転換が米軍を始めとした各国の軍隊で進んだ。特にジョージ・W・ブッシュ大統領期に国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルドは米軍の大規模な再編を行い、クルセイダー自走榴弾砲の開発をキャンセルしたため、米陸軍は1960年代に開発されたM109自走榴弾砲を改良しつつ使うなど、従来型の火砲は割りを食っていた。

衛星やドローンを過大評価し、塹壕を掘らずに大損害

 では、米軍の現場において、従来型の火砲はどう認識されているのだろうか。これは筆者がある幹部自衛官から聞いた話だ。

 米軍部隊が日本で訓練する際、自衛隊では当たり前の塹壕を掘っていなかったという。何も遮蔽物が無い土地では、塹壕を掘ることで銃撃や火砲に対する生存性は飛躍的に向上するが、その部隊は「衛星情報やドローンで位置がすぐに分かってしまう」という理由で、塹壕を掘らなかったのだ。

ウクライナで掘られた塹壕 ©️宮嶋茂樹

 一般的に戦場では高度な偵察能力を持つ側が先手を打って戦闘で優位に立てるので、この見解も突飛なものではない。

 実際に訓練では、その米軍部隊は最初の一撃を放つ事ができた。ところが、対抗部隊は初撃から立ち直り、火砲や迫撃砲による反撃を行うと、隠れるところのない米軍部隊は大損害を受けた判定になったという。火砲の脅威と塹壕による防御を軽くみた結果とも言えるかもしれない。