この当時、ウクライナ東部の街、セヴェロドネツクで外国人義勇兵として戦っていたエルヴィスと名乗る退役米兵は、ニューズウィークの取材に次のように戦場を表現している。
「この戦争はイラクでもアフガニスタンでもシリアでもない。肉挽き器だ。クソみたいな1916年型の西部戦線だ」
第一次大戦に似た砲撃戦が行われ、砲撃戦の訓練を受けていない欧米の特殊部隊、GSG9やSASの出身者が火砲の餌食になったと証言している。
このロシア軍の優勢を崩したのが、アメリカが供与したHIMARSだった。ウクライナ軍はロシア軍の火砲を直接攻撃するのではなく、砲兵指揮所や弾薬集積地をHIMARSで叩くことで、ロシア軍の火砲運用効率を劇的に低下させ、その影響は衛星からも確認できるほどだった。
しかし、この時HIMARSはロシア軍の火砲を撃破した訳ではない。運用効率は落ちたものの、ロシア軍は大量の火砲を未だ有していた。そして、投入当初は劇的な戦果をあげたHIMARSも、ロシア軍によるGPS妨害や分散によってその威力を削がれ、今夏のウクライナ軍の反攻作戦ではロシア軍要所への攻撃ではなく、火砲に向けて直接攻撃が行われている映像がよく公開されていた。
火砲+ドローンで射撃の精度が急上昇
原理的に火砲は、目視で観測できればミサイルと違って妨害も迎撃もされることなく遠距離に弾を送り込むことが可能だ。しかもコストはミサイルよりずっと安く、持続して弾を送りこむことができる。
ウクライナの反攻に対して防勢のロシア軍は塹壕陣地で守りを固めたが、地上を前進するウクライナ軍は脆弱で火砲の標的となる。そのために対砲兵戦でロシア軍砲兵を黙らせる必要が生じ、双方で激しい砲撃戦が展開されている。
このようにウクライナでの戦争において、火砲や砲兵(HIMARSも砲兵が運用する)が大きな役割を果たしてきたが、その活躍の裏には「ある新技術」が影響を与えている。
少し前まで軽く見られてきた火砲であったが、再評価に至ったのには技術革新も背景にある。空撮ドローンの一般化がそれだ。
前線の観測手からの報告に基づいて射撃を行っていた従来の砲兵に対し、ドローンによりリアルタイムで着弾点を観測できるようになったため、射撃精度や迅速性の向上に貢献している。