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 また、ある意味でこの米軍部隊の認識は、相手の能力を過小評価し痛い目を見たウクライナ侵攻開始当初のロシア軍と似ているかもしれない。しかし、それも無理もない部分もある。冷戦後の国際紛争は、圧倒的優位に立つ大国が徹底的な空爆を行ってから陸上部隊を投入するパターンがほとんどで、近いレベルにある軍隊が殴り合いをすることは稀だったのだ。

旧ソ連で開発されたD-30 122mm榴弾砲。ウクライナ戦争でも両軍で使用(筆者撮影)

 だが、ウクライナ戦争をうけて、米軍にも意識変化が訪れているようだ。アメリカ陸軍の近代化を担うアメリカ陸軍将来コマンドの司令官、ジェームズ・レイニー大将は「私達はウクライナで、精密射撃の重要性やあらゆる最新技術を目にしているが、戦場における大量殺戮者は従来型の砲、高火力の砲である」として、新たな砲兵戦略を策定するとDefense Newsに語っている。

 アメリカ陸軍将来コマンドはその名の通り、AIやロボット兵器、パワードスーツといったSFに出てくるような技術にも取り組んでいるアメリカ陸軍の将来を担う組織だ。そのような組織の長が、旧態依然に見える火砲をなぜ再評価したのだろうか。本稿ではウクライナ戦争における火砲とそれを扱う砲兵が果たした役割と、世界に与えた影響について紹介したい。

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新型兵器よりも、火砲の数が勝敗を決める?

 ロシア軍の侵攻から間もない2022年2月は、ウクライナが最も困難に直面していた時期だ。首都キーウ郊外までロシア軍部隊が迫り、侵攻から2日目には「キエフ(キーウ)が数時間以内で陥落か」という報道まで流れていた。しかし現実にはそうはならず、4月にはキーウ周辺のロシア軍は撤退し、当面の危機は去った。

ハルキウ市の地下鉄、「フロイフ・プラッツィー」駅。ヨーロッパ最大級の団地サリトゥフカ地区がロシア軍の集中砲火を浴び、住民らが避難してきた ©️宮嶋茂樹

 この戦争当初のウクライナの苦境を救った原因として、報道で説明されるストーリーの多くはジャベリンといった誘導兵器を挙げるものが多い。

 しかし、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が昨年11月に発表したレポートでは、そうした物語(ナラティブ)を否定し、キーウに配置されていた2個砲兵旅団による集中砲撃がロシア軍の前進を防いだ事を強調している。この時点でロシア軍に対して、ウクライナ軍は2対1の砲兵戦力を有しており、劣勢ではあるものの対抗可能だったのだ。

 しかし2022年の初夏、特に東部戦線においてはロシアが優位に立っていた。ウクライナ軍がストックしていた旧ソ連軍規格の弾薬を使い果たしたのに対し、ロシア軍は大量の火砲を投入し、砲兵火力で10対1とウクライナ軍を圧倒していた。