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阪神・藤浪晋太郎は“ただのガラス”で終わらない

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/04/12

 東京ドームが大きく揺れた。投手交代を告げるアナウンスが、あまりの大歓声で聞こえない。3月31日、巨人VS阪神の開幕シリーズ第二戦、日本球界に復帰した上原浩治がマウンドに上がったのだ。尋常ではない歓喜と興奮、そして希望、のようなもの、が圧となって押し寄せて、私は三塁側で阪神タイガースを応援しつつも「こんな空気の中、点なんて取れるわけがない」という感情に押し潰された。それくらい上原は、その場を、すべてを支配していた。

 対する3人のバッターたちも、そうした空気に飲まれたように、瞬く間に凡退した。私は奥歯をぎりぎりさせながら、悔しい、悔しい、悔しい! と思っていた。

 何が悔しいのか。打てなかったことが悔しいのか。それとも、その日の試合に負けたことか。いや、どっちも違った。私の悔しさは、タイガースにだって同じくらい、空気を支配できる選手がいるはずなのに、という悔しさだった。藤浪晋太郎である。

 なぜ藤浪の復活がこんなにも待たれているのか? と考えるとき、それはもちろん彼が先発ローテーションの一角として勝ち星を上げてくれなきゃ困るということもあるのだろうけど、それより何より、藤浪には空気を変える力があるからだ。マウンドで藤浪が吠えると何もかもが変わる、チームの雰囲気が変わり、見る者の心が変わり、その世界は一変する。いい意味でもそうじゃない意味でも、それが藤浪の宿命のようなものだろう。

空気を変える力を持っている藤浪晋太郎 ©文藝春秋

藤浪は本当に「メンタルが弱い」のか

 昨年、藤浪は地獄を味わった。ストライクが入らない、打者にぶつけてしまう、そもそも試合を作れない……そんな悩める右腕に対し、いろいろな意見が飛び交った。たとえば、藤浪に足りないものは走り込みだという人がいる。すなわち、下半身が弱いから、コントロールが悪くなる。昔の投手がひたすら走っていたように、何もかも忘れるくらい、藤浪も走り込むべきである、云々。

 また、藤浪はメンタルが弱いという人がいる。いわく、もとより精神的に弱い選手であるから、まずは精神力を鍛えることが大切である、云々。

 あるいは、藤浪に足りないものは走り込みでもメンタルでもなく、技術力だという人もいる。よって、フォームさえ「これだ」というものが見つかればすべてクリアできる、等々。

 私は素人なので、下半身の弱さとか、技術力不足とか、その辺りのことはわからない。だけども、メンタルが弱いというのは微妙に違う気もする。ほかの人よりちょっとばかり感受性が強い投手かな、とは思うけれども。そして性格がまっすぐで、まっすぐ過ぎるがゆえに他人にも自分にも嘘がつけなくて、不器用、だとも思うけれど。