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4.19広島-ヤクルト戦 ビジパフォ席で私が目撃した「あるトラブル」

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/04/22
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19日21時半頃、ビジパフォ席で起こったトラブル

 それは19日の21時半頃のことだった。試合は緊迫した場面を迎えていた。4対3でヤクルトがリードしていたもののカープが一打同点、あるいはサヨナラ勝利のチャンスを迎えていた。そして、カープが同点に追いついた瞬間だった。ある若い女性がヤクルト私設応援団・ツバメ軍団の下に近づき、プラスチックカップの中身をぶちまけたのである。僕はたまたまその光景を目撃したのだけれど、いったい何が起こったのか、瞬時に理解することはできなかった。

 そして、ツバメ軍団の一員と女性が激しく口論した後、彼女はカープ側の席に移動して、多くのカープファンと歓喜のハイタッチを交わしていた。すると、そこに警備員が駆けつけ、何やらやり取りをした後、その女性が連れていかれる様子を見た。このとき僕はこんなツイートをした。

 カープ女子、レフトビジパフォ席で、ヤクルト応援団にビールをぶっかける。そのまま警備員と口論。

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 後に確認してみると、それは「21:33」のツイートだった。ちなみに、試合後にツバメ軍団の方に確認したところ、カップの中身は「ビール」ではなく、「氷の解けかかった液体」とのことだった。それがソフトドリンクなのか酎ハイなのか、サワー類なのかは不明。

 しかしカップの中身以上に、僕はここで致命的なミスを犯していた。冷静に考えてみれば、彼女はカープユニフォームを着用していたわけではなかった。そして、カープ側の席に戻って、多くのカープファンとハイタッチを交わして喜びを表現していたのは事実だけれども、それをもって彼女のことを「カープ女子」と断定することはできないと後で気づいた。この点は素直に謝罪したいと思う。

 彼女がなぜそんなことをしたのかわからなかったので、自分が目にした事実だけをつぶやいたつもりだったが、この瞬間からツイッターが荒れることとなった。ヤクルトファンからは「許せない」という意見が殺到。一方、おそらくカープファンの人たちからは「証拠を出せ」とか「いい加減なことを言うな」という批判が渦巻いた。

「証拠を出せ」と言われても、カップの中身をぶちまける瞬間を撮影していたわけではない。警備員に聴取を受けている彼女の姿は一応、写真に撮ったものの、それをSNS上にアップすることはできない。さらに、目の前ではなおも試合は続いている……。そこで翌日、文春オンライン編集部を通じて、「広島カープ広報室」へ事実確認の問い合わせをした。以下がその回答である。

カープ広報も「把握しております」

【事実確認いただきたい事柄】
4月19日21時30分ごろ、広島対ヤクルト戦が行われたマツダスタジアムのビジターパフォーマンス席(以下ビジパフォ席)で、ある女性がヤクルト応援団がいるところで、プラスチックカップの中に入った氷入りの液体をまき、女性とヤクルト応援団が口論となった様子を、観客席にいた人間が複数目撃しております。

【質問】
1.球団として上記の騒動を把握されていますでしょうか?
→把握しております。

2.把握されているとしたら、今回の騒動に関して球団としてどのような感想をお持ちでしょうか?
→お客様には楽しく観戦していただきたいので、他のお客様に不愉快ととられる言動、行動は謹んでいただきたいと思っております。

3.把握されているとしたら、件の女性やヤクルト応援団に対し、どのような対処をされたのでしょうか?
→女性は飲酒されていたこともあり、警備員の誘導で現場から離れていただきました。その後、ヤクルト応援団の方には被害があったかどうかなど聞き取りをさせていただきました。騒動があったことは事実ですが、怪我や、液体で何かが濡れたなどの実害はなかったと聞いております。

4.ビジパフォ席を分割し広島ファンを入れることに関して、一部の野球ファンから疑問の声が出ていますが、球団として何か対策を考えているのでしょうか。
→ビジパフォ席分割の施策は始まったばかりです。明らかにこの施策が原因で騒動が起きた、ということがわかれば何らかの対策を考えますが、現時点では対策をとる予定はございません。

 以上が、「広島カープ広報室」の回答である。

球団の対応を検証しつつ、自身の振る舞いも反省……

 騒動時点の正直な思いを言えば、この彼女に対しては「おそらく酔っ払いなのだろう」と感じた程度だった。それは、今回に限らず多くの球場で目にしてきた光景でもある。これ以上、彼女を責めるつもりはまったくない。むしろ、「トラブルが起こりうる可能性があったのに、どうして広島球団はビジパフォ席を分割したのか?」という思い、さらに、「開放するのならばどうして、こんなに手薄な警備で臨んだのだろう?」という疑念が芽生えていたのが本音だったが、文字数に制限のあるツイッターで発するべき内容ではなかったと反省している。

 僕としては是非の判断ではなく、事実だけを述べることで、球団に対する疑問を述べたつもりだったのだけれど、カープ以外の球団のファンの中に芽生えつつある、近年の「カープビジパフォアレルギー」のようなものに配慮すれば、ツイート内容は扇情的すぎた。ツイッターでつぶやくのではなく、今回のようにまとまった文章で思いを述べるべきだった。

 この彼女は、しばらくの間、警備員と激しい口論を続けていたけれど、やがてどこかに連れ出されてしまった。彼女がその後、どうなったのかはわからない。そしてこれが、僕が目にした事実のすべてである。この日の深夜、文春オンラインの編集長からメールが来た。「今回の顛末を、文春野球で書かないか?」という依頼だった。

「煽りは必要なく、見たこと、事実のみを、淡々と冷静に書いていただけると、伝わる原稿になると思っています」

 球場を出た後、僕も編集長と同じことを考えていたので、今、こうしてパソコンのキーボードを叩いている。この彼女の他にも、カープファンの男性が「危ないから」という理由で、ツバメ軍団が振っている応援旗をつかみ取ろうとした行為も目撃した。一部ファンの狼藉に対して、「だからカープファンはダメなんだ」というつもりは毛頭ない。ヤクルトファンの中にだって、いろいろな人がいる。

 しかし、こんな事態を招いてしまった球団の対応に対しては、きちんと検証されるべきことだと思う。今年、マツダスタジアムではヤクルト戦だけではなく、中日戦、そしてDeNA戦でもビジパフォ席を分割することが決まっている。野球観戦に無用なトラブルは必要ない。「現時点では対策をとる予定はございません」との回答だが、球団にはきちんとした対応策を求めたい。そして、僕自身も不用意なツイートは厳に慎むべきだと心から反省している。

中日戦、ヤクルト戦、DeNA戦でのビジターパフォーマンス席の分割 ©長谷川晶一

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