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ジャニー喜多川氏の“戦後最大の性犯罪”を黙認した日本メディアの大罪

ジャニー喜多川氏の“戦後最大の性犯罪”を黙認した日本メディアの大罪

2023/12/30

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能

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 60年以上にわたって数百人規模の未成年男子に性加害を繰り返してきたジャニー喜多川氏(87歳没)。長い年月、社会ぐるみで隠蔽されてきた“戦後最大の性犯罪”はようやく世間が知るところとなった─。

ジャニー喜多川氏

「外部専門家による再発防止特別チーム」の調査報告を受け、9月7日、ジャニーズ事務所の会見が開かれ、オーナーの藤島ジュリー景子氏が初めて公の場に姿を現し、会見冒頭でこう語った。

「特別チームも公表されましたが、事務所としても個人としてもジャニー喜多川に性加害はあったと認識しております」

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 これはジャニーズ事務所が創業者ジャニー氏の性加害を認めた初めての言動である。5月の謝罪動画では、ジュリー氏はおじの性加害を「知らなかった」と説明していたが、一転、事実を認定した。特別チームの調査報告にあるようにジャニー氏は顕著な性嗜好異常者で、20歳頃から80歳代半ばまで、未成年相手に間断なく頻繁かつ常習的に性加害を繰り返した。

 筆者は週刊文春時代からジャニーズ事務所の人権蹂躙(教育欠如や不公正な労働条件、不当な報酬配分)や組織体質などの問題を20年以上取材し続けてきた。99年10月から14回に及んだ週刊文春の「性加害キャンペーン」においても記者として参加。ジャニー氏の性加害の実態を克明に報道したが、まさにそれは“悪魔の所業”で、未成年を自身の身勝手な欲望のために凌辱し、彼らの人格をことごとく崩壊させていた。大人の恋愛や性行動がどんなものなのか知らない子どもたちは、性虐待によって深刻なトラウマを未発達の心と身体に刻みつけられる。親やきょうだいにも打ち明けられない背徳を負い、「自分が悪いのではないか」という自己否定を伴うこともあり、うつ病やPTSD、解離性障害に苦しむのだ。

 自分の子どもたちがそんな目にあったら。想像するだけで虫唾が走る話である。こうした犯罪から子どもたちを守るのは大人の義務であるが、ジャニー氏はそれと真逆、子どもたちの魂を殺してきた。そして「デビューさせてあげるから」「目立つポジションに立たせる」と甘言を弄して、グルーミングで洗脳し、芸能界に憧れる少年たちをコントロールしてきたのである。

「ユーはダメ。いらないでしょ」

 文春のキャンペーンの際、ある元タレントを取材すると当時の苦しさと悔しさを吐露し、分別盛りの大人がボロボロと涙をこぼして唇を震わせるのを目の前で見た。彼は地方出身で、スカウトに来たというジャニー喜多川氏が実家に宿泊した際に、性加害を受けた。スターを目指していたという彼はこう証言した。

「ジャニーさんが狙うのは地方から出てきて、夢を諦めたら行き場がなくなる子ども。普段は優しいのですが、機嫌を損ねると露骨にいじめや意地悪をしてきて、自分は子どもだったからそれが悲しかった。(身体の)そういうのも本当に嫌で、断ったことがあるんです。そしたらいつも行くファミレスで、ジャニーさんは『好きなもの頼んでいいよ』とみんなに言うんだけど、『ユーはダメ。いらないでしょ』と僕からだけメニューを取り上げて……。いま思い出してもすごく悲しい。この気持ちわかりますか……」

 彼は心根の優しい人だ。そこにつけ込むのがジャニー氏の狡猾なところである。