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「SNSはあってもしんどいけど、なくてもしんどいもの」作家・大前粟生が新作『チワワ・シンドローム』を書きながら考えたこと

『チワワ・シンドローム』(大前粟生)

2024/01/27

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 読書

note

それでもなお、繫がりに救いを求めている

 こうした数字本位のものの考え方が自然になったことで、誰もが自らのポジションについて、より過敏になってはいないだろうか。

 “バズる”ためにより多数を刺激できるような物言いを考え、“炎上”しないために多数を刺激しない物言いを考える。なにもかもがその人の“キャラ”を表す意見になり、一貫性にそぐわないような素朴な物言いはどんどんなくなっていく。

 それが私にはしんどい。こういう“キャラ”の人は絶対にこうあるべきだ、という圧力のようなものを、無限の可能性があるはずのインターネットに感じてしまう。

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写真:アフロ

 SNSやインターネットから離れようと何度も思うけれど、つい気になってまた戻ってきてしまう。自分の身の回りでなにが起きているのか、自分と立ち位置の似た人たちが今どんな活動をしていてなにを考えているのか知りたくなる。なにか漠然と繫がっている大きな人間関係というか、みんなでバラバラに交わす噂話みたいな、親しいような怖いようなSNSのあの雰囲気に加わりたくなる。そうすることで、自分は輪から外れていないと思いたいのかもしれない。そうやって、“空気感”に触れて楽になったりする一方で、それが窮屈で仕方がない時だってある。

 SNSは、あってもしんどいけど、なくてもしんどいもの––––こんな風に思うのは、私だけだろうか。

 私たちは正直、数の多い少ないにうんざりしている。それなのに、数の多い少ないでしか価値判断ができなくなっていて、日々溢れかえる“強者”アピールや“弱者”アピールといったものを冷めた目で眺めながら、他人から承認されたくておもしろいことを言おうとする自分に幻滅してしまう。それでもなお、繫がりに救いを求めている。