1月17日、第170回直木三十五賞の選考会が開催された。受賞作は、河﨑秋子さんの『ともぐい』(新潮社)万城目学さんの『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)に決定。

 受賞発表の翌日、河﨑秋子さんに話を聞いた。

©文藝春秋/撮影:松本輝一

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――『ともぐい』での第170回直木賞受賞おめでとうございます。昨日の選考会はいつもより長くかかったと思いますが、ずいぶん待たれたのでは。

河﨑 3時間、延々とゲームをしていました。ボードゲームとか、町中華のメニューを作るカードゲームとか。編集者の皆さんが忖度もなく容赦のない感じで(笑)、それがありがたかったですね。受賞の電話がかかってきた時は、周りの皆さんが自分よりも喜んでくださったので、本当に獲れてよかったと思いました。

――記者会見の時、ジャケットの下にお尻を向けた牛のイラストのTシャツを着ていませんでした?

河﨑 着ていました。自分と同じく北海道出身の桜木紫乃先生が『ホテルローヤル』で直木賞を受賞された時、ゴールデンボンバーゆかりのタミヤのTシャツを着ていらしたので私も何か着ようと思って。会見では誰も訊いてくれなかったので、今訊いてもらえてよかったです(笑)。

記者会見には、牛のお尻柄のTシャツを着て登壇 ©文藝春秋/撮影:鈴木七絵

受賞作の「原型」は…

――『ともぐい』は明治後期、日露戦争前夜が舞台。道東の山の中で犬だけを相手に暮らす猟師、熊爪の話です。これはデビュー前に書いた短篇を改稿し、膨らませたものだそうですね。

第170回直木賞を受賞した『ともぐい』(新潮社)

河﨑 30歳手前の頃、北海道新聞文学賞に最初に投稿したものが原型になっています。その時点では日露戦争前夜という時代設定はなく、明治という設定だけでしたが、主人公の熊爪という名前も、大筋も結末もほぼ同じです。賞をいただくには至らなかったんですけれども最終選考には残って、それが書き続けるモチベーションになったので思い入れがありました。それを長い形で書いてみませんかとお声がけいただいたんです。

 今読み返すといろいろ未熟なところがありますが、ものを書こうとした時の根源的な情熱が詰め込まれているので、その後少しは身に着いた技術で書き直してみたいと思いました。