人を殴るような文章を書きたい
――どの作品も文章世界が素晴らしいのですが、以前「人を殴るような文章を書きたい」とおっしゃっていましたね。
河﨑 私も上品な人間ではないので(笑)。読み手としても、否応なしに物語の中に引きずり込まれる小説にすごく魅力を感じるので、『ともぐい』に関しては引きずりこむことを意識しました。一方で、静かに後ろから忍び寄ってきて包み込んでくるような物語も好きです。両方書けるようになるのが、作家としての技術的な面での目標ですね。
――河﨑さんはデビューされた時も羊飼いをされていたわけですが、よく執筆の時間を確保されていましたね。
河﨑 若かったので、体力があったんです。でもやっぱり物語のほうに注力したいというのがあって、2019年に専業の作家になりました。
――先ほども言ったように明治~昭和の北海道を舞台にした作品が多いですが、必ずしもそれにこだわっているわけではないそうですね。『介護者Ⅾ』(朝日新聞出版)のように、コロナ禍の札幌で父親の介護をしながら生活する女性の話も書かれていますし。
河﨑 書きやすいのはやはり北海道ですし、昔のことを書くのが多いのは単純に、俯瞰しやすいというのがあるかなと思います。物語を組み立てる上で冷静に俯瞰することは必要ですので。それに、昔の人のほうが無茶しますから、物語として書きやすいというのもあります。
でもどうせなら、広く書いてみたいです。北海道も違うものも、両方書きたいですね。『介護者D』は現代であることと、一般の誰にでも起こり得る家庭の話で、かなり作者の視点、いってみればカメラを近くにおいた小説でした。そういった模索をしながら、いろんな時代背景、いろんな場所、いろんな人に手をつけていきたいです。
今後の展望は
――今後どんな小説を発表されるのか、ものすごく楽しみです。
河﨑 小学館さんで書いていた「愚か者の石」という連載が終わって、今単行本の準備をしているところです。それは明治時代の樺戸集治監の話です。去年1年間、日本農業新聞さんで連載させてもらった「森田繁子と腹八分」は農業コンサルタントが主人公のコメディっぽいものです。KADOKAWAさんで連載している「銀色のステイヤー」は現代の競馬の話です。どれも全然違いますね(笑)。
2019年に専業になって、これからいろんなところに取材に行くぞと思ったタイミングでコロナ禍になって行動できずにいたので、これからいろんなところに行けたらと思っています。