文春オンライン

「クマに引きずり下ろされ…」幼稚園児も登る低山の“冬眠穴”にヒグマが潜んでいた! ベテラン調査員が陥った“ワナ”

#2

2024/01/30
note

なぜベテランでも襲われたのか?

 後日、内山はAさんにインタビューを申し込み、Aさんが語った事故時の状況を紙面にしている。調査のベテランでクマの生態に詳しいはずのAさんはなぜ襲われたのか。

 内山の取材に対してAさんは、事前に通報者から提供されていた穴の写真を見て、クマの冬眠穴である可能性は低い、という予断を持ってしまったことを明かしている。

 というのも通常、冬眠穴であればクマの体温によって周囲より早く雪融けが進むのだが、写真にはその形跡がなかった。また現場が住宅街からわずか400~500メートルしか離れていない場所であったことも、「まさかこんなところで……」という判断へと傾いてしまった理由だという。

ADVERTISEMENT

 31日の調査はあくまで“冬眠穴ではない”ということを確認するためのものだったのだが、ようやく穴を見つけたAさんの第一印象は「あれ、思ったより大きい」というものだった。内山のインタビュー記事ではこう続く。

内山さんの取材ノート

〈半月前に通報者から提供された写真では横30センチ弱、縦数センチから10センチの細長い穴だった。だが実際の穴は横50センチ、縦75センチほど。「本当に冬眠穴かも」。Aさんはこう思いつつ、唐辛子エキスが入ったクマ撃退スプレーを構えず、穴の斜め上からつえで入り口付近をトントンと突いた。

 その直後、「モゾモゾとクマが出てきた」。体長150~170センチ、体重は100キロ前後。Aさんは逃げようとしたが、クマに引きずり下ろされ、うつぶせに倒れた。とっさに背負っていたザックを頭に載せ、両腕を首の後ろに組む防御姿勢をとった〉(「北海道新聞」2022年6月19日掲載)

 クマはAさんの左肘に噛みつき、穴に引きずりこもうとしているように見えた。一緒にいた同僚がクマスプレーを噴射するが、クマとの距離が近すぎたため、右肘を噛まれてしまう。Aさんはこの間に起き上がると、スプレーをクマの顔に向かって噴射、クマは斜面を駆け下りていった。

 Aさんは顔と左肘から出血、同僚は右肘の骨が欠ける重傷を負った。

関連記事